司法修習生に対する給費制の継続を求める声明 

戦後司法修習制度の開始以来継続して実施されてきた司法修習生に対し国が給与を支給する制度(以下「給費制」という。)は、平成16年(2004年)12月の裁判所法の改正により、平成22年(2010年)10月をもって廃止され、同年11月以降、希望する者に対して国が修習資金を貸与する制度(以下「貸与制」という。)が実施されることとなっている。

静岡県弁護士会は、2003年10月10日と2004年6月30日の2回「司法修習生の給費制堅持を求める会長声明」を出し、21世紀の司法を担うにふさわしい質の高い法曹を養成するために、司法修習生の給費制を維持すべきことを訴えた。

しかし、前記のとおり、2004年12月の裁判所法の改正により、給費制が廃止されることが決まってしまった。この給費制から貸与制への移行は、一連の司法制度改革の議論の中で、司法修習生という国家公務員の身分を有しない者に対する給与支給が異例の取り扱いであること、司法修習が、司法修習生の法曹資格取得のためのものであること、給費制導入時に比較して現在の大幅な法曹人口の増加により社会情勢が大きく変化していることなどを理由として実施されるにいたったものである。もっとも、同改正に際し、衆・参両院の付帯決議で、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれないように、また、経済的事情により法曹への道を断念する事態を招くことのないようにとの決議がなされている。

そもそも、法曹という職業には高い倫理性が求められ、公共的な職務を果たすことが要請されている。弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とすると弁護士法1条1項に定められている。このように、弁護士は、裁判官、検察官とともに司法制度の直接的な担い手として国民の権利・義務に大きな影響を与える公益性、専門性の高い職務であることから、司法試験合格者が直ちに法曹実務に就くことは相当ではなく、国の責務として統一・公平・平等の理念の元に法曹を養成し、質の高い法曹を生み出すことを目的として司法修習制度が設けられたのであり、そのため司法修習生は修習に専念する義務を課し兼職を禁止して労働の権利を制限する代わりに修習期間中の司法修習生の生活を保障することとして給費制が採用されたのである。そして戦後、司法修習制度の発足以来、実に62年間の長きにわたってこの制度が実施され所定の成果を上げてきたのである。

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法曹の養成は国の責務である。国民が適正な法的サービスを受けられるように、その直接的な担い手である法曹に人材を確保しこれを適切に養成してゆくことは即ち司法における人的基盤を確保しひいて法の支配を実現するという極めて国家的な価値を有する事業であると言わねばならない。それは決して受益者負担などという個人的なレベルで論ぜられるべきものではなく、国による法曹養成の負担は、養成された法曹が公的使命を担った活動をしてゆくことで社会に貢献し、そして還元されてゆくものである。このことは法科大学院を中核とした新たな法曹養成制度のもとでもなんら変わるところがない。

新司法試験制度は、法科大学院の履修を受験資格としており、法曹志望者は既に相当の経済的負担を余儀なくされている。そして給費制を廃止するということは、司法試験合格後も修習専念義務により収入の道を閉ざされながら、1年間の修習期間中生活費を自己負担しなければならないこととなる。このことは結果的に法曹志望者が経済的に裕福な特定の階層に限定されることを招来しかねず、法曹志望者の平等公平な競争を阻害し、有意且つ優秀な人材を法曹界から遠ざけることにつながるものである。そして多様な社会経験を有する社会人や、被扶養者を持つ者などにも法曹への道を開き、法曹の供給源を広く国民一般に求めようとした司法改革の理念に根本的に反するものと言わざるを得ない。なお、2004年からの医師国家試験合格者には2年間の臨床研修が義務付けられたが、研修専念義務が課せられ期間中のアルバイトが禁止されたことに対応して、研修医には国庫からの補助により相応の給費が支給されることになっている。

以上の理由により、当会は、再度、司法修習生に対する給費制を維持ないし復活すべく、政府、国会、最高裁判所に対し、条件整備の措置を講ぜられるよう強く求めるものである。

2009(平成21)年9月30日
静岡県弁護士会
会長 鈴木 敏弘

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