電子マネーに関する資金決済法の改正等を求める意見書

第1 意見の趣旨

プリペイドカードの利用拡大に伴い,第三者型前払式支払手段におけるサーバー型電子マネー(以下,単に「電子マネー」という。)を決済手段とする悪質事業者による被害,及び,電子マネーのID番号等が詐取される被害が多発している実情に鑑み,「資金決済に関する法律」(以下,「資金決済法」という。)の改正等により,以下の措置を講ずべきである。

  1.  第三者型前払式支払手段発行者(以下,「電子マネー発行業者」という。)に対する加盟店管理義務を徹底させるために,資金決済法を改正し,加盟店契約時における審査,加盟店契約締結後の随時審査,苦情発生時の調査・対応をすべき義務について,具体的内容を伴って明文化すること。
  2.  

  3.  電子マネーのID番号等を詐取される被害を防止すべく,資金決済法を改正し,電子マネーの権利(ID番号等)の業としての転売等の禁止等の措置をすべきこと。少なくとも,同法ないし古物営業法を改正し,業としてID番号等の転売等を行う事業者に対して,登録・許可制度,買取時の本人確認義務及び疑わしい取引の申告義務について明文化すること。

 

第2 意見の理由

  1.  はじめに
    1. (1) 電子マネー取引の拡大に伴う被害の拡大
       インターネット,特に近時のスマートフォンの大幅な普及に伴い,コンビニエンスストア等で購入し,インターネットを通じて24時間決済ができる電子マネー(プリペイドカードなど。以下,「プリカ」と略することもある。)の利用が拡大しているが,その裏で深刻かつ被害回復が困難な消費者被害が多発している。
    2. (2) 具体的な被害の実情とその特徴
       静岡県内においても,「サクラサイト商法」(いわゆる「出会い系サイト」において業者の用意した「サクラ」から様々な名目で高額の金銭を詐取される被害)や「情報商材商法」(ノウハウを伝授する等といって高額の金銭を詐取される被害)に関する深刻な消費者被害―被害額が1000万円を超える事案も散見される―が多発している。これら悪質商法の被害の特徴の1つとして,現金振り込みやクレジットカードによる支払いに加え,電子マネーが決済手段となっていることが挙げられる。
       警察庁が発表した「平成27年の特殊詐欺認知・検挙状況等について」においても,電子マネーで支払わせる手口による詐欺の認知件数・金額がともに急増していることが指摘されている。
       さらに,電子マネーに関しては,加盟店ではない業者がその匿名性を悪用し,電子マネー発行業者が発行したID番号等を消費者から詐取し,これを転売して利益を得るといった新たな類型の被害も多発している(以下,このようにID番号を詐取する類型を「プリカ詐欺」という)。匿名の事業者から被害回復を図ることは極めて困難であり,泣き寝入りを余儀なくされる消費者も少なくない。
    3. (3) 当会は,電子マネー決済の適正化を確保しつつ,悪質な加盟店を排除して消費者被害を防止するために,電子マネー発行業者における加盟店管理の徹底及び具体的な苦情処理対応,並びに,プリカ詐欺型の被害防止に向けた対応策に関し,意見を述べるものである。
  2.  

  3.  加盟店管理及び苦情処理対応
    1. (1) 電子マネー発行業者に対する加盟店管理義務について,現行の資金決済法に直接的な規定は存在しない。
       しかし,電子マネーによって購入できる商品等が「公の秩序又は善良の風俗を害し,又は害するおそれがあるものでないことを確保するために必要な措置を講じていない法人」については,そもそも電子マネー発行業者としての登録が拒否されるのであるから(資金決済法10条4号),電子マネー発行業者には,加盟店が公序良俗に反するおそれのある商品等を消費者に提供しないように適切な措置を講じることが,行政的に義務付けられていると言える。
       また,同法10条4号の違反行為が確認された場合には,業務停止命令,登録取消といった行政処分の対象になるともされている(同法26条,27条)。
       これらの具体的内容については事務ガイドライン(事務ガイドライン第三分冊5Ⅱ-3-3-1)に規定されているに止まるが,電子マネー発行業者に法律上,加盟店管理義務を課すことについての基盤が,現行法においても十分に備わっていると言うべきである。
    2. (2) この点,電子マネー取引は,電子マネー発行業者が,販売業者等を加盟店とし,消費者との取引において,継続的に決済手続に関与するという構造を有しており,この点でクレジット取引と類似している。そのため,資金決済法に加盟店管理義務を導入するにあたっては,割賦販売法における加盟店管理義務の規程が参考となる。
       現行の割賦販売法においては,クレジット業者に対して,加盟店管理義務として,①苦情の適正処理義務(同法30条の5の2,省令60条)とともに,②個別信用購入あっせん業者(個別クレジット)に対して不適正与信防止義務(同法35条の3の5第1項)が課せられている。さらに,本年12月2日に改正された割賦販売法においては,加盟店契約会社(アクワイアラー)に対して,加盟店の不正利用防止に関する体制整備状況の調査義務を含む加盟店調査義務が課されることになった。
       悪質な加盟店を適切に排除するという目的を達成するためには,電子マネー発行業者に対しても,クレジット業者に対するのと同等の加盟店管理義務を課すべきである。
    3. (3) そして,加盟店管理義務の内容についても,より具体化すべきである。
       すなわち,加盟店契約締結時の初期審査は極めて重要であるが,初期審査のみでは,当該加盟店の実態を適切に把握することが困難な場合も多く,そもそも加盟店契約締結後に,加盟店が事業内容自体を変更していることも少なくない。
       また,実際に加盟店と取引をしている消費者等からの苦情等の情報は,加盟店の実態を把握する上において極めて重要な情報であって,同苦情に対する適切な対応をすることは,当該消費者の被害救済のみならず,加盟店を管理する場合においても求められることである。
       そこで,電子マネー発行業者に対しても,加盟店契約締結時のみならず契約締結後にも加盟店について定期的な審査を行うこと,並びに消費者から加盟店に関する苦情を受け付けた時に速やかに対応する体制を構築する義務を課すべきである。
       そして,これらの義務は,単なるガイドライン等による体制整備の追加のみではなく,法律上の行為義務として明確に規定すべきである。
    4. (4) 以上の観点より,資金決済法を改正して以下のような加盟店管理義務を定めることを明文化すべきである。
      1. ア. 加盟店契約締結時の義務
         電子マネー発行業者は,加盟店との間で,前払式支払手段に係る契約を締結しようとする場合には,その契約の締結に先立って,加盟店に関する名称,住所,電話番号,代表者氏名,特定取引・商品等の種類,不正利用防止に関する体制,苦情処理体制などの事項を調査しなければならない。
      2. イ. 加盟店契約締結後の義務
         電子マネー発行業者は,加盟店契約締結時に確認した事項に関する著しい変化の有無について,一定期間(半年から1年程度)ごとに調査をしなければならない。
      3. ウ. 苦情発生時の義務
        1. ① 電子マネー発行業者は,利用者(前払式支払手段の保有者)の利益の保護を図るため,その利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じなければならない。
        2. ② 電子マネー発行業者は,利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じるときは,次の各号に定めるところによらなければならない。
          1.  利用者からの苦情を受け付けたときは,遅滞なく,当該苦情に係る事項の原因を究明すること。
          2.  原因究明により知った事項からみて,当該苦情の内容に応じ,当該苦情の処理のために必要な事項を調査すること。
          3.  調査の結果に基づき,加盟店契約の解除,決済の停止,利用者への調査結果の情報提供・返金等の対応をすること。
  4.  

  5.  プリカ詐欺型の被害防止
    1. (1) プリカ詐欺型の被害の最大の原因は,電子マネーの現金化が事実上可能になっていることにある。
       そもそも,電子マネーについては,電子マネー発行業者による払戻が原則禁止となっていること(資金決済法20条2項),電子マネー発行業者の規約において,原則として,ID番号等(権利)の第三者への譲渡・転売を禁止していること,及び,電子マネーの多くは一度の使用により権利の移転が不可逆的に不可能となることといった事情に照らせば,本来であれば現金化という問題が生じないように思われる。
       しかし,現実には,詐取されたID番号等の買い取り・転売をする業者(以下「RMT業者」という。RMTとは,「Real Money Trade」の意。)が存在し,これらのRMT業者に対し,未使用の電子マネーのID番号を事実上通知することによって現金を得ることが可能となっている。このように,RMT業者を通じた現金化の途が存在することが,プリカ詐欺型被害の増大につながっている。
    2. (2) この点,一般化している決済手段である銀行振込やクレジットカードなどにおいては,「犯罪による収益の移転防止に関する法律」によって,口座開設時や会員登録時において,厳格な本人確認がなされているのに対して(同法4条以下。),電子マネーについては,匿名性を維持したままで購入,使用するのみならず,譲渡・転売が事実上可能となっている。これは,事実上の資金移動やマネーロンダリングを容易にするものであり,重大な問題といえる。
       さらに,匿名性を維持したまま譲渡・転売できるために,転売者であるID詐取者を特定することも極めて困難である。結果として,悪質業者等にとっては,被害者から電子マネーのID番号等を詐取することが,最も安全かつ容易に利益を得る手段となっている。
       そこで,プリカ詐欺型の被害を防止するためには,RMT業者への規制も含めた被害実態に即した規制を行うべきである。
    3. (3) 以上の観点より,電子マネーについては,現在の匿名性を維持しつつも,少なくとも業としての権利の転売等(売買以外の交換,売買等の委託を受ける,市場経営,インターネット上の競りなども含む)を法律上禁止すべきである。権利の転売等を法律で禁じることは,電子マネー発行業者の規約等で現に禁止されていることから,決して行き過ぎた規制とはならない。
       また,仮に,権利の転売等を禁止し得ないとしても,RMT業者に対して,商品券等(動産である前払式支払手段)についての古物営業法と同様の規制をすべきである。具体的には,資金決済法ないし古物営業法を改正し,RMT業者の登録・許可制(古物営業法3条等参照),買取時等における本人確認義務(同法15条1項,21条の2参照),及び,疑わしい取引の申告義務(同法15条3項,21条の3参照)を課すべきである。
       なお,プリカ型詐欺の被害に関しても,消費者から電子マネー発行業者に対する苦情の申立があった場合には,前記加盟店管理義務に基づき,苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置(消費者への情報開示を含む)を講じるべきである。

以上

 

2016(平成28)年12月20日
静岡県弁護士会
       会長 洞江 秀

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