各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議 

>> 提案理由

当弁護士会は,日本における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,次のことを政府及び国会に対して強く求める。

  1.  国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を速やかに導入すること。
  2.  国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した,真に政府から独立した国内人権機関を設置すること。

以上のとおり決議する。

2013(平成25)年6月7日
静岡県弁護士会

提案理由

  1.  個人通報制度について
      個人通報制度とは,人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害されているにも拘わらず,国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合,被害者個人等が,各人権条約の定める委員会に通報し,救済を求める制度である。通報が受理され,審議された後に条約機関から出される意見(Views)は,法的拘束力はないものの,国際国内の世論を高め,通知先国内法の改正を促す等,人権侵害の救済是正を実現する上で重要な役割を果たしている。この個人通報制度を実現するためには,各条約の人権保障条項について個人通報制度を定めている選択議定書を批准するなどの手続が必要であるが,日本政府は未だに批准等を行っていない。
      個人通報制度が実現すれば,被害者個人が各人権条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能となり,日本の裁判所が人権保障条項の適用について積極的とはいえず,国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっていることに鑑みるとその意義は大きい。また,個人に対する人権侵害の救済を促すだけでなく,条約機関から人権侵害の原因となる法制度の改善を求められることを通じて,国内制度が国際人権基準に沿って改善されることにもつながる。裁判所においても,国内の裁判の後に条約機関からの意見があり得ることを前提とすれば,国際的な条約解釈に目を向けざるを得ず,その結果として,日本における人権保障水準が国際基準にまで向上し,また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの効果が期待される。
  2.  国内人権機関の設置について
      国連決議及び人権諸条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合には,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求めており,多数の国が既にこれを設けている。
      国内人権機関を設置する場合,その機関が実効ある救済措置を講ずることができるよう,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等において独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことが必要とされている。
      現在,日本には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,その職務に関しては法務大臣の指揮監督を受けるとされるなど独立性等の点からも極めて不十分な制度である。
      日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約機関の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,また,国内の人権NGOからも国内人権機関の設置の要望が高まっている。
      このような状況の中で,日本弁護士連合会は,2008年11月18日,パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。2011年8月2日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた基本方針を発表するなど,国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。
  3.  当弁護士会は,日本における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く採用し,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。

以 上

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