憲法96条の憲法改正発議要件緩和に反対する決議 

憲法改正手続きを定める憲法96条について、自由民主党は、2012年4月27日、日本国憲法改正草案を発表し、各議院の総議員の過半数で憲法改正の発議ができるよう変更する提案を行った。さらに安倍晋三首相は、本年7月に行われる予定の参議院議員選挙で憲法96条の先行改正を公約に据える考えを表明している(その後、公約には明記しないことにした。)。また、日本維新の会も憲法96条改正に賛成している。

その改正提案の理由として、自由民主党は日本国憲法が世界的に見ても改正しにくい憲法となっており、憲法改正が国民に提案される前の国会の手続きをあまりに厳格にするのは、主権者である国民の意思を反映しないことになってしまうと説明する。

しかしながら、憲法改正の発議要件を緩和する改正案は、日本国憲法の根幹にかかわる重大な問題を孕んでいる。

 

そもそも憲法は、基本的人権を守るために、国家の組織を定め、たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても権力を濫用するおそれがあるので、その濫用を防止するために、国家権力に縛りをかける国の基本法である(立憲主義)。

憲法は国の最高法規であり(憲法98条)、憲法97条は基本的人権が永久不可侵であることを宣言する。そして憲法96条は、憲法改正に厳格な手続きを要求して(硬性憲法)憲法の最高法規性を保障する重要な意義を有している。

基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、その基本的人権を保障するための憲法の仕組みを弱体化させることは、人類の歴史を後退させる不名誉な行為である。事実、憲法改正要件を緩和する憲法改正が行われた例は、第二次世界大戦後多数の憲法改正を行っている主要国においても見当たらない。

また日本国憲法の改正要件が、諸外国の憲法の改正要件と比較して特に厳しいということもできない。諸外国においても、法律と同じ要件で改正ができる憲法は極めて少数であり、ほとんどの国が厳格な憲法改正要件を定めている。日本国憲法よりも一層厳しい改正要件を定める国も存在する。

諸外国の憲法改正規定を根拠として、発議要件の緩和を正当化させることはできない。

 

憲法改正の発議要件を緩和する憲法96条改正提案は、立憲主義と基本的人権尊重の理念を弱体化させるものとして極めて重大な問題が存在する。当会は、憲法改正の発議要件を緩和する憲法96条改正提案には強く反対する。

 

上記、決議する。

2013(平成25)年6月7日
静岡県弁護士会

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