法曹養成制度改革検討会議の中間的取りまとめに対する会長声明 

政府の法曹養成制度検討会議が「中間的取りまとめ」を公表し、4月12日からパブリックコメントに付された。この中間的取りまとめは、法曹有資格者の活動領域、今後の法曹人口、法曹養成制度の在り方など、法曹養成制度やこれに関連する法曹の在り方に関わる事項についての検討結果を取りまとめたものであるが、当会のこれまでの見解からみて不十分な点が多いと言わざるを得ない。

 

第1に、今後の法曹人口の在り方について、司法試験の年間合格者数3000人という数値目標を事実上撤回したこと自体は評価できるものであるが、法曹養成制度全体をどのようにしていくのかという制度設計が欠如している点である。

中間的取りまとめは、「今後の法曹人口の在り方については、法曹有資格者の活動領域の拡大状況,法曹に対する需要・・・その都度検討を行う必要がある」と述べているが、司法制度改革以降も、弁護士人口だけが大幅に増加し、他方で訴訟事件や法律相談件数は増えておらず、弁護士の裁判以外の分野への進出も限定的である。また、司法修習終了者の就職難が深刻化し、実務経験による技能習得の機会が十分得られない新人弁護士が増えている。かかる状況は、給費制の廃止等と相俟って、法曹志望者を激減させる要因ともなっている。したがって、現在の合格者約2000人を減少させ、法曹人口の増加率をより緩やかにしていく必要がある。

当会は、このような状況を踏まえ、2011(平成23)年6月3日の定時総会において、「法曹人口・法曹養成に関する決議」を採択し、政府に対し、司法試験の年間合格者数を1500人以下とすること及び更に5年後に再度見直しをすることを求めた。これは法科大学院の総定員を2500人程度に減少させ、かつ法科大学院における一層厳格な修了認定により2000人程度が卒業するものとして高い合格率を実現するという制度設計を前提としている。これにより前記の問題点を解消しようとしたものである。しかし、中間的取りまとめには、このような制度設計が全く欠如している。当会は、再度、政府に対し、司法試験の年間合格者数を1500人以下とすることを求めるとともに、法曹養成制度検討会議に対し、これを前提とした制度設計を取りまとめることを求めるものである。

第2に、司法修習生に対する経済的支援の在り方については、「より良い法曹養成という観点から、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう」という目的が掲げられてはいるが、あくまで貸与制が前提とされており、上記目的を実現するための具体的措置が示されていないという点である。

そもそも、司法修習生には修習専念義務が課せられている。これは、司法に携わる者としての中立性・公正性などの司法修習という特質から求められる当然の義務である。この結果、司法修習生はアルバイトなども禁止され、無収入で1年間生活をするという苛酷な状態に直面するのである。昨今の就職難、弁護士の収入減を考慮すると、貸与制でいいというのは現実的ではない。このような状況が、法曹志望者の激減を招いていることを直視すべきである。

また、修習の費用は受益者である司法修習生が負担すべきと言われることがあるが、司法修習生のみが受益者ではなく、司法という社会インフラを利用する国民も受益者であると見ることができ、国家がインフラ整備の費用を負担することには合理性がある。

さらに、資産のある者には修習資金を与える必要がないと言われることがあるが、同じように修習専念義務を負わされているにもかかわらず経済的理由により異なる取扱いをすることは、合理的理由のない差別である。

こうしたことから、政府に対し、当会は、2011(平成23)年6月3日の定時総会において司法修習生の給費制を維持することを求め、2012(平成24)年9月10日の会長声明において給費制の復活を求めたものであるが、本声明においても、政府に対し、改めて、給費制の復活を求めるとともに、法曹養成制度検討会議に対し、これを前提とした取りまとめを行うことを求めるものである。

第3に、法科大学院制度の改革については、現在実施されている法科大学院への公的支援の見直し方策を強化するという内容等にとどまっており、大規模校を中心とした大幅な定員削減が必要という点や法科大学院の地域適正配置の重要性が明確にされていないという点である。

この点を、当会としては非常に重視している。

法科大学院の総定員の8割以上が東京、大阪、名古屋の大都市圏に集中している。総定員を2500人程度にまでに減ずるためには、大都市圏の大規模法科大学院の定員を大幅に削減する必要がある。地方の小規模法科大学院の定員削減や統廃合を行っても全体の大幅な定員数の削減にはつながらず、到底2500人規模への削減はできない。

他方で、地方在住者に対してその地域の法科大学院で教育を受けて法曹になる機会を実質的に保障することは、公平性・開放性・多様性の確保を目的として地域適正配置を求めた司法制度改革審議会の理念に直結するものである。そして、このことこそが,地方の法科大学院志願者の経済的負担を大きく軽減し,地方の法曹志願者数を維持するだけでなく,司法過疎の解消,地域司法の充実・発展に貢献し,地方自治・地方分権を支える人材を育成することに繋がる。すなわち、法曹の多様性・公平性の確保・地域司法の充実等の観点から法科大学院の地域適正配置の意義をより明確にすることが必要である。

こうしたことから、当会は、2011(平成23)年6月3日の定時総会において、法科大学院の総定員の削減にあたっては、地域適正配置の観点から、地方法科大学院の定員削減や統廃合によることに反対し、かつ地方法科大学院に対し積極的な支援をすることを政府に対して求めるとともに、その理由中で大規模法科大学院の大幅な定員削減を求めたのである。

また、2012(平成24)年12月27日の会長声明で、法科大学院の全国適正配置の意義を重視し、これを担保し地方法科大学院がその使命を実現できるよう、国立大学法人運営交付金又は私立大学等経常費補助金を減額せず、地方法科大学院への公的支援を一層強化することなどを政府に対して求め、2013(平成25)年1月28日にも、これと同趣旨の11弁護士会会長共同声明を出した。

当会は、政府に対し、改めて、大規模校の定員削減に向けて努力すること、法曹の多様性確保・地域司法の充実等の観点から法科大学院の地域適正配置の意義を重視し、地方法科大学院への公的支援を一層強化することなどを求めるとともに、法曹養成制度検討会議に対し、これを前提とした取りまとめを行うことを求めるものである。

2013(平成25)年4月25日
静岡県弁護士会
会長 中村 光央

ページトップへ戻る