地方における法曹養成制度の維持・発展を求める会長声明 

 法科大学院制度が平成16年4月に創設されてから10年を迎えようとしている。法科大学院は,法の支配をあまねく実現するために,その人的基盤の整備として,「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべき」であるとして(平成13年司法制度改革審議会意見書),その中核としての「法曹養成に特化した教育を行う『プロフェッショナル・スクール』として」創設されたものである。そして,法科大学院の設置については,公平性・開放性・多様性を確保するために,地域性を考慮した全国的な適正配置となるように地域的配置を尊重し,人的・物的諸条件の整備など設立・運営に要する費用については,司法の人的基盤を整備する上での重要な一翼を担うという法科大学院の意義や役割に配慮して適正な公的支援が行われる必要があるとされた。

 これを受けて,静岡県内にある静岡大学大学院法務研究科(静岡大学法科大学院)は,前記司法制度改革の理念の下,当時の県内のほとんどの市町の65議会と当会を含む14団体の設立推進決議,及び県民10万人署名を背景に設立されたものである。設立後は,伊豆半島その他の司法過疎地において,院生も参加する法律相談会を実施したり,県内弁護士に対する中国法の講義などの継続教育を実施するなど,地域司法の充実・発展に寄与してきた。また,司法試験合格者数も27名に達し,合格後は地元弁護士会に登録した者も多く,また法テラスの法律事務所やその養成事務所,地元県庁などに就職した者など,地元や過疎地の司法を担う人材として貢献している。そして,地元に法科大学院があったからこそ法曹になれたという者も少なくない。これらの成果に鑑みれば,司法制度改革における地域司法の充実・発展という理念を実現すべく,同法科大学院が一定の成果を上げてきたのは間違いない事実である。

 当会も,開校に当たり同法科大学院と協定を締結し,当会会員を実務家教員として派遣するとともに,長年にわたり寄付金募集活動を行い,また多数の若手会員の協力のもと院生の自主学習を支援する等,これまで同法科大学院の法曹養成教育を支援してきた。

 ところが,文部科学省は,司法試験合格率の低迷と法科大学院入学志願者の減少が顕著であるとして,従前の公的支援を見直し,法科大学院の全国適正配置の理念をほとんど考慮することなく,入学者選抜における競争倍率と司法試験の合格率などを指標として国立大学運営費交付金及び私立大学等経常費補助金の削減に踏み切った。こうした状況の中,私立大学だけでなく,国立大学法人である島根大学法科大学院や信州大学法科大学院などが,相次いで新入生の募集停止を発表するなどの事態になっている。このままでは,ほとんどの地方法科大学院が消滅してしまうという危機的状況にある。

 しかしながら,地方在住の法曹志望者が,その地域の法科大学院で教育を受けて法曹になる機会を実質的に保障されることは,公平性・開放性・多様性の確保を目的として法科大学院の全国適正配置を求めた司法制度改革審議会の理念に直結するものであり,それは地域司法の充実・発展,司法過疎の解消に貢献し,地方自治・地方分権を支える人材を育成することに繋がるものであるから,地方における法曹養成制度は維持・発展させなければならない。

 現在,静岡大学法科大学院は,地方における法曹養成制度を維持・発展させるべく,他の地方法科大学院などと連携して,遠隔システムなどを利用したキャンパス分散型の広域連合法科大学院を構想して,その実現のために努力している。この構想の根幹は,基幹校で実施される授業に遠隔システムを使って地方の参加校の院生も参加し,参加校にもサポート教員を配置して教育環境を保持するというものであり,これにより各地方における法曹養成機能を維持・発展させようというものである。これが実現されれば,静岡県を含む地方在住の法曹志望者が,その地域の法科大学院で教育を受けて法曹になる機会を実質的に保障されることとなり,法科大学院の全国適正配置を実現するモデルケースともなりうるものであって,非常に画期的なものである。

 そこで,当会は,今後も静岡大学法科大学院を支援していくことを表明するとともに,関係機関に対し,以下のことを強く求めるものである。また,静岡大学に対しても,上記連合構想の実現のために全学を挙げて最大限の努力を払うことを求めるとともに,当会に対する事前の説明なしに上記連合構想を断念することがないよう念のため付言するものである。

 

  1.  政府は,我が国の隅々まで法の精神・法の支配を及ぼすべく,法科大学院の全国適正配置を担保して地方法科大学院がその使命を実現できるよう,静岡大学法科大学院の上記連合構想に対し必要な支援を行うこと。
  2.  日本弁護士連合会は,単なる競争原理に基づく地方法科大学院の廃止統合に反対し,法科大学院の全国適正配置の理念を実現すべく,静岡大学法科大学院の上記連合構想の実現のために,政府その他関係諸機関に対して強く協力を求める等必要な支援を行うこと。

 

2014(平成26)年2月25日
静岡県弁護士会
会長 中村 光央

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