少年法改正法案に反対する会長声明 

  1.  政府は,本年2月7日,少年法の一部を改正する法律案を国会に提出し,今国会における成立を目指している。しかしながら,当会は,この法案に対し強く反対する。
  2.  まず,この法案は,少年に対する不定期刑の上限を10年から15年に引き上げ,また,犯行時18歳未満の少年を無期刑に処断すべき場合の緩和有期刑の上限をも15年から20年に引き上げる等,少年に対する刑罰の長期化により,少年事件の厳罰化を企図するものである。
     しかしながら,少年事件は,いわゆる重大・凶悪事件も含めて統計上むしろ減少しており,このような厳罰化を正当化すべき立法事実は存在しない。また,少年法は,「少年の健全な育成」(少年法第1条)を期するものであることを忘れてはならない。少年が非行に及んでしまう背景には,成長・発達の途上にあるが故の未熟さの影響が強い。そして,少年法は,可塑性に富む少年に対し,再び非行に陥ることなく更生するために必要な教育と援助を与えるために存在する(保護主義)。しかるに,少年に対する刑罰を今以上に長期化させれば,長きにわたって社会から隔絶された少年の社会復帰はきわめて困難となり,少年の健全な育成を図るという少年法の基本理念は形骸化する。
     さらに,これまでの少年法改正による厳罰化に対しては,既に,国連こどもの権利委員会(CRC)から2度にわたって明確に懸念が表明され,かつ,是正が勧告されている。それにもかかわらず,更なる厳罰化を内容とする今回の改正法案は,CRCの表明・勧告に逆行し,より一層,子どもの権利条約違反の程度が高まったものとして,CRCから是正勧告を受けることは必定である。
  3.  加えて,この法案は,少年審判への検察官関与対象事件の大幅な拡大をも含んでいる。そのため,この法案が成立すれば,窃盗や傷害などを含めた大多数の少年事件にまで検察官が関与する可能性が生じる。しかしながら,保護主義を基本理念とする少年審判では,非難ではなく教育により,少年に対して真の自覚と内省を促すためにも,懇切を旨として和やかな審判運営が必要である(少年法22条1項)。
     ところが,本来は捜査と訴追を担うべき立場にある検察官の審判関与には,少年審判を成人の刑事裁判と同様な処罰の場に変容させるおそれがある。だからこそ,検察官関与制度を導入した先の2000(平成12)年の少年法改正では,その対象事件の範囲を一定の重大な事件に限定するものとされたのである。そして,この改正後の実務において,検察官関与の対象事件の範囲が限定されているが故に深刻な支障を生じたことはないはずであって,検察官関与の大幅な拡大を支持すべき立法事実は何ら存在しない。むしろ,検察官が関与した審理と検察官による抗告受理申立により,無実の少年に対する「非行事実なし」の判断が確定するまでに,実に4年もの歳月を要することになって,少年の福祉が長きにわたって阻害され続けたという看過しがたい弊害事例が指摘されている(いわゆる大阪地裁所長襲撃事件)。それにもかかわらず,検察官関与の対象事件を大幅に拡大しようとするこの法案は,少年事件における保護主義の理念を著しく後退させるものである。
     ところで,この法案には,国選付添人の対象事件を拡大し,被疑者国選弁護人の対象事件の範囲と一致させることが盛り込まれている。そして,この改正事項は,少年に対する手続保障の観点から速やかな実現が期待されるところであり,さらに将来的には,少年鑑別所に収容された全ての少年にまで国費による弁護士付添人の選任を保障することが必要である。しかし,この法案は,検察官関与の拡大と国選付添人の拡大を一体のものとして捉えており,問題である。そもそも,両制度はそれぞれ目的を異にするものであり,両制度を結びつける論理的な必然性は全く存在しない。そればかりか,国選付添人対象事件の拡大に対する期待の影で,検察官関与の拡大による弊害が見えにくくなり,十分な議論がなされないまま法案が成立するおそれすらある。国選付添人の対象事件の拡大は当会の悲願でもあるが,これを検察官関与の拡大と少年の重罰化とに連動させようとする法案には,およそ賛同できない。
  4.  以上のとおり,当会は,立法事実の有無及び法改正による弊害について十分な検証を行わないまま,少年法の目的を形骸化させ,かえって少年の更生を困難とするおそれの強いこの法案を成立させることに対し,強く反対する。

 

2014(平成26)年3月18日
静岡県弁護士会
会長 中村 光央

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