違法収集証拠排除法則による無罪判決が続いたことを受けて,静岡県警察及び静岡地方検察庁に対し強く抗議をする会長声明

    1. (1) 平成25年11月22日,静岡地方裁判所は,違法収集証拠排除法則による無罪判決を言い渡した。
       覚せい剤取締法違反被告事件において,捜索時に警察官が被告人に対し暴行を加えたうえ,令状に基づかない実質的な逮捕を行い,弁護人選任権行使を妨害して取調べが行われたという事案であった。
       同裁判所は,警察官が捜索時に暴力を加えて傷害を負わせ,その後,病院に連れて行かず警察署に連れていき取調室に留め置いた一連の事態は,実質的に違法な身柄拘束であり,また,弁護人の援助を受ける権利を侵害した疑いもあるとした。そして,実質的に違法な身柄拘束の中で行われた採尿手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法があるといわざるを得ず,尿の鑑定書等を証拠として許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと判示した。
    2.  

    3. (2) 平成28年6月24日,東京高等裁判所(原審静岡地方裁判所)は,違法収集証拠排除法則による無罪判決を言い渡した。
      覚せい剤取締法違反被告事件において,警察官が強制採尿令状請求の際,覚せい剤使用の嫌疑を抱いた経緯に関し,意図的に虚偽の疎明資料を提出したという事案だった。
       同裁判所は,令状請求についての裁判官の判断をゆがめるものであり,そのような疎明資料を提出して強制採尿令状を得た捜査手続には令状主義を没却する重大な違法があり,しかも,警察官が,覚せい剤使用の嫌疑とは関係のない別のトラブル案件を口実として,被告人に嘘を言って警察署への出頭を求め,被告人を錯誤に陥らせて,立ち去ることが困難なパトカーに乗車させた疑いがあり,このような捜査行為は,覚せい剤使用の嫌疑に基づく任意捜査として許容されないとした。そして,被告人の尿を差し押さえた捜査過程には,令状主義の精神を没却する重大な違法があり,これと密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと判示した。
    4.  

    5. (3) 平成28年9月5日,静岡地方裁判所浜松支部は,違法収集証拠排除法則による無罪判決を言い渡した。
       覚せい剤取締法違反被告事件において,警察官が行った保護手続が,警職法3条1項及び同法6条1項の要件を欠くにもかかわらず,警察官が被告人の自宅に立ち入り,被告人の体を複数で押さえつけるなどして制圧したことによってなされたという事案だった。
       同裁判所は,本来令状なしでは到底許されない手段,態様で成し遂げられた身体の自由及び住居の平穏を侵害する極めて重大な違法手続であり,かつ,警察官の意図として,保護手続きではなく,被告人への職務質問を継続するためのものであったとの疑いを払拭することはできず,仮にそうでなくても,保護手続の要件を満たすとの警察官の判断は重大な誤りに基づくものとした。そして,保護手続の後に行われた採尿手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法があるといわざるを得ず,尿の鑑定書等を証拠として許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと判示した。
  1.  

  2.  当会は,上記1.(1)の判決を受け,人権を無視した違法行為であるに止まらず,司法の公正を根幹から揺るがしかねないものであり,強く抗議するとともに,本件のような違法な捜査が今後二度と行われないよう,捜査に関する法令,判例,裁判例について警察官の教育を行うなど,再発防止に努めることを強く求める旨の声明を発表しているところである(平成25年12月13日付け「違法収集証拠排除法則による無罪判決に関する会長声明」)。
     しかし,その後も警察による違法捜査が根絶されるどころか,二度も無罪判決が出された異常事態を受け,改めて抗議するとともに,再発防止を強く要請する。
  3.  

  4.  憲法35条は「何人も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利は, 第33条の場合を除いては,正当な理由に基いて発せられ,且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」と規定し、刑事訴訟法1条は「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする」と規定する。
     公権力を行使する捜査機関がその活動を行う際には,憲法,法令を遵守しなければならない。言うまでもなく,捜査の必要性は違法捜査を許容する理由にはならない。 現在の法制度、法解釈は、法令遵守を無視ないし軽視した公権力が暴走し、治安維持の名目のもとで人権侵害が横行された過去の様々な歴史、事件を経て、その反省から生まれている。
     そして,違法収集証拠排除法則を明らかにした最高裁昭和53年9月7日判決は,捜査手続に「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑止の見地からして相当でないと認められる場合においては,その証拠能力は否定される」として,違法捜査を許さないという厳しい態度を示しているのである。
     なお,上記最高裁判例が,「重大な違法」捜査が行われた場合に証拠能力を否定すると判示しているからといって,捜査機関に違法捜査が許容されるわけではない。捜査機関には,違法性の大きさ如何にかかわらず,一切の違法捜査を行わないことが求められる。
     捜査機関が公権力を行使して活動をするからには,捜査に関わる人間一人一人が,法令遵守の態度を自覚し,令状主義の意味や,過去の判例の事案に精通し,違法捜査の根絶に全力を尽くすべきである。
  5.  

  6.  約3年の間に,一度ならず,三度も違法収集証拠排除法則による無罪判決が出された静岡県警による捜査活動は,被疑者・被告人の人権を無視した違法行為であるにとどまらず,司法の公正を根幹から揺るがすものであり,絶対に許容できない。
     静岡県警本部及び警察捜査を指揮監督する静岡地方検察庁に対しては,裁判所によって認定された違法捜査の事実を厳粛に受け止め,関係者に対し厳正な調査のうえ事実を糾明し,厳正な処分を行うことを求める。そして,今後二度と違法な捜査が行われない様,捜査に関する法令,判例,裁判例の教育を徹底するなど,再発防止に努めることを改めて強く要請する。

 

2016(平成28)年12月20日
静岡県弁護士会
       会長 洞江 秀

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