共謀罪(「テロ等準備罪」)の制定に反対する会長声明

  1.  政府は,本年3月21日,「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」案を国会に上程した。政府は,この法律案を「テロ等準備罪」と呼んでいるが,その実態は「共謀罪」である。共謀罪法案は,国連越境組織犯罪防止条約(以下「本条約」という。)の批准のためとして,これまで3回国会に提出され,国民の広範な反対の前に3回とも廃案になった法案である。
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  3.  当会は,共謀罪の制定について,憲法及び刑法の大原則に反することや監視社会をもたらす危険性などを理由に過去4度にわたり制定反対の会長声明を出している(2004年1月22日付け「共謀罪の新設に反対する会長声明」,2005年6月23日付け「共謀罪の新設に反対する会長声明」,2006年3月22日付け「共謀罪法案に反対する再度の会長声明」,2006年4月28日付け「『共謀罪』法案に重ねて反対する会長声明」)。
     今回の共謀罪法案についても,本質的な危険性は何も変わりがないため,改めて制定反対の意見を表明するものである。
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  5.  今回の共謀罪法案では,「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画罪」を新設し,その略称を「テロ等準備罪」としている。共謀罪法案を2003年の政府原案と比較すると,適用対象を「団体」とされていたものを「組織的犯罪集団(団体のうち,その結合関係の基礎としての共同の目的が一定の罪を実行することにあるものをいう。)」と定義している。また,犯罪の「遂行を二人以上で計画した者」を,「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配,関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」に処罰するとした。対象犯罪の範囲については,条約が定める長期4年以上の刑を定める合計676の犯罪のうち,組織的犯罪集団の関与がありうる277の犯罪に限定することとされた。
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  7.  しかし,ここに示されている修正は,対象犯罪の限定を含めて,いずれも本条約が適用対象を制限するために認めていた条件を具体化したものであり,また2006年に第三次与党修正案としてまとめられていたものとほとんど変わらず,何ら目新しい提案ではなく,適用対象がテロリズムに限定されているわけでもなく,これを「テロ等準備罪」と呼ぶことはミスリードであると言わざるを得ない。
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  9.  日本国憲法は,内心の自由,思想良心の自由を基本的人権として保障している。その趣旨から,近代刑事法原則は,法益侵害の危険性を生じさせた客観的な行為のみを処罰の対象としている。これにより,内心は処罰されず,法益侵害の危険性がない行為も処罰されることはない。
     しかし,共謀罪は人と人との意思の合致によって成立するものである。その合意内容を処罰の対象とする以上,人の思想や内心を処罰することになる。したがって,その捜査は,会話,電話,メールなど人の意思を表明する手段を収集することとなる。そのため,捜査機関の恣意的な検挙が行われたり,日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視したりするような捜査がなされるようになる可能性がある。法務大臣は,この犯罪を通信傍受の対象とすることは,将来の検討課題であると答弁している。
     また,罪刑法定主義は,犯罪構成要件を限定し明確にすることで国民の行動の自由を保障する。
     しかし,277にも及ぶ犯罪について内心段階から処罰できるとされれば,捜査・処罰対象が広範であるばかりか,いかなる行為が捜査・処罰対象になるのかあいまいとなり,国民の自由に対する重大な脅威となる。
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  11.  「組織的犯罪集団」の該当性判断は,広く捜査機関の判断に委ねられる。法務大臣は,もともと適法な会社や団体でも,その性格が変化し,罪を犯したときに,共同の目的があれば,組織犯罪集団という認定は可能であると答弁している。捜査機関の運用によっては,あらゆる団体が捜査対象となりうるため,団体活動への日常的な監視の根拠とされかねず,捜査機関の国民への監視強化は免れない。
     そして,すでに成立した特定秘密保護法,盗聴法拡大・司法取引導入を内容とする改正刑事訴訟法等により,捜査機関による国民の監視・密告社会の危険性はますます強まっている。共謀罪の捜査のために拡大された盗聴法により国民の日常生活が盗聴されたり,司法取引や共謀罪法案に盛り込まれている自首した場合の必要的減免規定により密告を奨励するなどの危険性が懸念される。
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  13.  「準備行為」は,それ自体法益侵害性が要求されていない要件である。したがって,具体的な危険性のある行為を要件とする予備罪の予備行為以前の,ATMで預金を下ろしたり,メールを送るなどの行為も準備行為と言われかねず,十分な限定とはいえない。
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  15.  また,対象犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から,277の犯罪に減らされた点についても,絞り込みの基準が明確でなく,未だに組織犯罪やテロ犯罪と無縁な広範な犯罪が対象とされていることから,有効な歯止めと解することはできない。
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  17.  政府が提案するような広範な共謀罪を制定することは,本条約批准のために必要不可欠ではない。現に,本条約批准のために,あらたに共謀罪を制定した国としては,ノルウェーとブルガリアしか報告されていない。本条約34条1項は,国内法化は国内法の原則に従って行うことを認めている。我が国には,すでに70を超える予備罪,共謀罪があり,多くの組織犯罪やテロ犯罪について,未遂以前に処罰できる法制度が完備している。政府は,新たに立法をすることなく,国会承認ずみの本条約の批准手続きを進めるべきである。
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  19.  政府は,テロ対策のために,共謀罪法案の必要性を説明する。しかし,テロ対策としては,例えば,殺人予備罪,凶器準備集合罪,破壊活動防止法,爆発物取締罰則,銃刀法,テロ資金提供処罰法等,既に十分な立法がなされているのであって,新たに共謀罪を制定する必要性はない。
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  21.  静岡県弁護士会は,憲法の保障する基本的人権を侵害する危険が高く,さらに,国家による国民監視を強化させる危険が高い共謀罪法案の制定に強く反対する。

 

2017(平成29)年4月26日
静岡県弁護士会
       会長 近藤 浩志

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