裁判員制度に関する会長声明 

  1. 裁判員制度に関し政府は、本年1月19日開会の通常国会への法案提出を目指して、司法制度改革推進本部「裁判員制度・刑事検討会」(以下「検討会」という)における制度設計の議論を終えようとしている。他方各政党においても同制度の制度設計が提案され、例えば合議体の構成について、公明党は、司法制度改革審議会の意見(以下「審議会意見」という)を尊重し、裁判官2人、裁判員7人を提案し、民主党も、裁判官1人、裁判員10人前後を提案しているのに対し、自民党は裁判官3人、裁判員4人程度を提案している。
  2. もとより、裁判員制度の制度設計は審議会意見に従って行われなければならない。審議会意見は、「日本国憲法のよって立つ個人の尊重(憲法第13条)と国民主権(同前文、第1条)が真の意味において実現されるために」「統治主体・権利主体である国民」が、「司法の運営に主体的・有意的に参加」することを国民の役割とし、「広く一般の国民が、裁判官と共に、責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度」として裁判員制度の導入を提言した。即ち、裁判員制度の基本理念は、国民主権であり、その生命線は、裁判員が「裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる」制度か否か、更には、国民が参加しやすい制度か否か理解しやすい制度か否か、参加の意義を実感できる制度か否かである。
  3. 当会としては裁判員制度の制度設計が大詰めを迎えたこの機会に、上記の基本認識に立ち以下の事項の重要性を強く訴えるものである。
    1. (1) 合議体の構成
      裁判員を単なるお飾りとすることなく、裁判員が裁判内容の決定に主体的、実質的に関与し、期待される健全な社会常識を裁判に一層反映することができるために、裁判官の数は1人または2人、裁判員は9人ないし11人とすべきである。
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    3. (2) 評決
      刑事裁判は人の一生を左右する事柄であり、評議、評決の重みという点からも安易に多数決によることなく、有罪判決の場合は全員一致を原則として飽くまでも評議を尽すべきであり、評議を尽しても意見がまとまらないときは例外的に3分の2以上の絶対多数決とすべきである。
      また、死刑を言渡すときは全員一致とすべきである。
    4. (3) 裁判員の年齢
      国民主権の見地から、特に年齢を引上げる必要はなく、衆議院議員の選挙権を有する者で満20歳以上の者とすべきである。
    5. (4) 分かりやすい証拠調べ
      捜査段階の自白の任意性、信用性について公判における不毛の争いを避け、自白の任意性、信用性の判断が容易にできるようにするため、被疑者の取調べ過程全体を録画することを義務化すべきである。
    6. (5) 証拠の開示
      充実した迅速かつ継続的な公判審理と真実発見のために、検察官の手持証拠の被告人、弁護人に対する全面開示を制度化すべきである。
    7. (6) 身柄拘束制度の抜本的改革
      充実した審理と被告人の防禦権を保障するために、現在おこなわれているような接見の制限や無用の勾留は許さず、また保釈を原則化する制度とすべきである。
    8. (7) 裁判員の守秘義務
      裁判員の心理的負担を軽減し、裁判員制度の健全な発展を期するために、裁判員が任務を終えた後は、職務上知り得た秘密及び自己以外の発言者と発言内容が特定できる事項を除いては、その経験を自由に述べることを容認すべきである。これを制限したり、守秘義務違反に刑罰を科すべきではない。
      また報道規制もすべきではない。

以上

2004(平成16)年1月14日
静岡県弁護士会
会長 河村 正史

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