憲法改正国民投票法案に反対する声明 

憲法改正手続を定める国民投票法案が、4月13日の衆議院本会議で自民・公明党などの賛成多数で可決され、参議院における審議に入った。

そもそも憲法改正国民投票は、主権者たる国民自身が、国政のあり方を最終的に決定するものであり、高度に民主的な手続きである。したがって、その手続きを定める国民投票法は、国民が充分な情報を得た上で、自由にその意思を決定し、権力に縛られることなく行動して一票を投じ、その意思決定は結果に充分に反映される内容でなければならない。

また、日本国憲法は国民主権・基本的人権の尊重・平和主義という人類普遍の原理に基づく国の基本法であるから、憲法改正に関する決定は極めて慎重に行われることが前提とならなければならない。したがって、国民投票法もかかる前提の下に制定されなければならない。

ところが、既に衆議院を通過した国民投票法案には、上記のような民主的かつ公正さの観点を欠く、重大な問題が存在する。

  1. 法案は、最低投票率の定めをおかず、かつ有効投票総数の過半数(無効票は結果に反映されない)の賛成をもって「過半数の賛成」ありと規定する。しかし、これではごく少数の国民の賛成のみで憲法改正が承認される結果をもたらし、憲法改正のためのハードルを高く設定した硬性憲法の建前に反する点で、重大な問題がある。
  2. 法案は、公務員・教育者についてその「地位を利用した」国民投票運動を規制し、かつかかる運動に対して罰則が科される余地を残している。かかる規定は、本来自由であるべき公務員・教育者の国民投票運動に対して重大な萎縮効果を及ぼし、表現の自由を不当に規制する点で、重大な問題がある。
  3. 法案は、改正案の発議について「内容において関連するごと」としており、一括投票の余地を残している。しかし、条文ごとの個別投票によらなければ、改正案と国民の意思表明との対応関係が不明確となり、国民投票において国民の意思が正確に反映されない恐れがある。
  4. 法案は、改正案の「公報」及び「広報」に関する事務を担う「広報協議会」を国会に設置するとし、その委員は国会での各会派の議席数に応じて構成すると規定する。しかし、かかる委員の構成では、国会内で少数意見となる改正案への反対意見が公平に取り扱われるか疑問があり、国民への情報提供に偏りが生じる恐れがある。
  5. 法案は、憲法改正を発議した日から60日以後180日以内の日を投票日とするとしているが、このような短期間では、国民間の充分な議論・熟慮が保障されない恐れがある。

以上の通り、同法案は、国政のあり方を決める憲法改正に関わる法律であるにもかかわらず、依然として重大な問題が多数存在しており、なお審議は尽くされていないというべきである。

それにもかかわらず衆議院においては与党の賛成のみで強引に法案が可決されたことに対し、当会としては遺憾の意を表明すると共に、なお法案に重大な問題点が存在することに鑑み、同法案に反対する旨を表明するものである。

2007(平成19)年4月20日
静岡県弁護士会
会長  杉本 喜三郎

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