日本国憲法の基本原理を堅持する宣言 

1946年の制定以来約60年、日本国憲法はその内容を変えることなく、日本国の「最高法規」であり続けてきた。ところが近時、その憲法を改変しようという動きがかつてないほど高まっている。

当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とするものの責務として、また日本国憲法を頂点とする諸法規に則って活動する法律の専門家であるとの自覚から、日本国憲法が次の三つの崇高な理念・基本原理の上に成立していることを明確にし、以下のとおり宣言する。

  1. 第1 日本国憲法は、国家の権力を制限して国民の自由と平等を守るための礎である。
  2. 第2 日本国憲法は、主権が国民に存することを宣言し、基本的人権の保障を基本原理とする。
  3. 第3 日本国憲法は、戦争を放棄し、戦力を保持しないという徹底した平和主義に立脚する。

当会は、かかる崇高な理念・基本原理を謳う日本国憲法が戦後約60年にわたって国民の権利・自由の拠り所となったこと、またその存在によって平和な生活を享受し得たことを重く受け止めるゆえ、かかる理念・基本原理に反する憲法改正は、もはや改正の範囲を超えるもので決して容認することはできない。

改憲論の中には、国家の社会秩序の維持を個人の権利・自由に優先させる意図のもとに、憲法に国民の行動の規範としての役割を課そうとするもの、国民の責務・公益や公共の秩序への協力を憲法に明記し強調しようとするものがある。しかし、それは人類の歴史の所産である近代の立憲主義や、基本的人権の保障の原理を明らかに後退させるものであり容認することはできない。

また改憲論の中には、平和主義の実現には9条1項があれば十分であり、戦力の保持と交戦権の否定を定めた9条2項を削除して軍隊の保持を明記すべきとするものがある。しかし、第1次世界大戦後の1928年に締結されたパリ不戦条約には日本国憲法9条1項と全く同旨の「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄」を定めた条項があり、日本・ドイツ・イタリアも含めた15ヶ国がこれを批准したにもかかわらず第2次世界大戦が起きた。つまり、戦争の放棄を宣言するだけでは戦争の阻止につながらなかったのが歴史の現実である。人の生命と自由の尊重は人権の根幹をなす。そして戦争は人の生命と自由を無差別に奪う最大の人権侵害であることからすれば、戦力を持たず、交戦権を認めないことを定めた9条2項こそ平和の維持に大きな意味を有する。この徹底した平和主義を後退させる改憲論を容認することはできない。

基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体である当会は、憲法改正をめぐる論議において、日本国憲法における立憲主義の理念及び国民主権・基本的人権の尊重・徹底した平和主義という基本原理が堅持され、さらに発展せられんことを求めるものであり、21世紀を、日本国憲法前文が謳う「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」が保障される輝かしい世紀とするため、世界の人々と協調して人権擁護の諸活動に取り組む決意である。

以上のとおり宣言する。

2006(平成18)年2月24日
静岡県弁護士会

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