「最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明」を発表しました。 

最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

 

静岡地方最低賃金審議会は、本年8月頃、静岡労働局長に対し、本年度静岡県最低賃金改正の答申を行う予定である。昨年、同審議会は、静岡県の最低賃金を時間額944円から40円引き上げて時間額984円とする答申を行い、静岡労働局長は、昨年10月1日から、静岡県の最低賃金を同審議会の答申どおり時間額984円に改正した。

しかし、静岡県の時間額984円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約17万円、年収約204万円にしかならない。仮に時間額1,000円であったとしても、年収ではワーキングプアと呼ばれる水準である200万円をわずかに超える程度にしかならないのである。
 2023年、全国労働組合総連合が発表した静岡県立大学短期大学部中澤秀一准教授による全国最低生計費試算調査の結果によると、25歳単身・賃貸住居の場合、人並みの生活に必要な費用は、月約24万円と試算されており、これを時間額に換算すると、最低でも約1,400円が必要である。
 つまり、現在の水準では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。昨今の、消費者物価の大幅な上昇が続いている状況下ではなおさらである。
 このように多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は、もともと日々生活するだけで精一杯で十分貯蓄を蓄えることができていない。
 したがって、最低賃金を大幅に引き上げ、最低賃金付近の低賃金で働く労働者の貧困を解消することが求められている。

 

2024年の各国の最低賃金額をみると、イギリスでは、4月に21歳以上の者の最低賃金が10.18ポンドから11.44ポンド(約2,185円)に引き上げられた。フランスでは11.52ユーロから11.65ユーロ(約1,910円)に引き上げられた。ドイツでは1月に12.0ユーロから12.41ユーロ(約2,035円)に引き上げられた。アメリカは、地域によって開きがあるものの、ワシントンDCでは16.50ドルから17.00ドル(2,601円)、ニューヨーク州では14.20ドルから15.00ドル(2,295円)へ引き上げられた。
 このように各国で最低賃金の引上げが実現していることに加え、我が国の最低賃金の水準が依然として低いことから、2024年度の大幅な引上げが必要である。

 

最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことも見過ごせない。
 2024年の最低賃金は、最も高い東京都で時間額1,113円であるのに対し、静岡県の時間額984円との差は129円である。一方、最も低い岩手県は時給893円であり、東京都と220円もの開きがあった。しかし、前出の最低生計費調査によれば、都市部と地方とを比較した場合、都市部に比べ、地方では家賃は低いものの生活のためには自動車が必要となることから、最低生計費は地域間でほとんど差が生じていないことが明らかとなっている。  最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が固定、拡大する傾向にある。静岡県に隣接する神奈川県と比べた場合、神奈川県の時間額は1,112円となっており、その差は128円であった。静岡県熱海市と神奈川県湯河原町の県境を流れる千歳川を境に、大きな格差が生じており人材の流出・労働力不足の深刻化が懸念される。
 都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 したがって、最低賃金の大幅な引上げによって地域経済を活性化することが求められているのであり、早期に全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

 

他方、最低賃金の大幅な引上げは、我が国の経済を支えている中小企業の経営に影響を与えることが予想される。最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難い。最低賃金を引き上げても、中小企業が円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要である。例えば、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるようにするとともに、社会保険料の事業主負担部分を減免するなどの支援策を実現することが不可欠である。

 

当会は、これらのことを前提として、地域経済の健全な発展を促すとともに、すべての労働者の健康で文化的な生活を確保するため、静岡地方最低賃金審議会に対し、時間額1,400円を達成すべくまずは最低賃金の大幅な引き上げを内容とする答申を静岡労働局長に行うことを強く求める。

 

2024年(令和6年)6月21日
静岡県弁護士会
会長 梅田 欣一

 

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