最高裁判所大法廷判決を受けて、旧優生保護法による被害の全面的回復を求める会長声明 

 

 本年7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟5件の上告審において、旧優生保護法による被害について、除斥期間(平成29年法律44号による改正前の民法第724条後段)の適用を制限するとの統一的判断を示し、国に対して損害賠償金の支払いを命じました。
 本判決は、特定の疾病や障害を有する者等を対象とする旧優生保護法の不妊手術に関する規定は、「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」上、差別的なものであり、憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであったことを認め、同規定の立法行為は違法であったと判断しました。
 そのうえで、除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして、除斥期間の適用を制限したという点において、画期的な判決です。
 これまで、旧優生保護法国賠訴訟に関しては、全国各地の地方裁判所及び高等裁判所において、「被害者らの損害賠償請求権が改正前民法第724条後段の除斥期間の経過により消滅したか」につき争われてきましたが、本判決は、この点について最高裁判所として初めて統一的な見解を示したもので、本判決によって、国が被害者である原告らに対して賠償金の支払義務を負うことが明確になりました。

 

 1948年に制定された旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に掲げた法律であり、このような優生思想に基づき、1996年の母体保護法に改正されるまでの間、障害のある人に対して、不妊手術が約2万5000件、人工妊娠中絶が約5万9000件、合計約8万4000件もの手術が実施されました。これは、戦後最大規模の重大な人権侵害です。
 当県内においても、優生思想の普及と優生手術が、国策として官民通じて奨励され、旧優生保護法に基づく強制不妊手術による被害を受けた方々がおられます。
 そして、静岡地方裁判所本庁及び浜松支部において、除斥期間の適用を制限して国に損害賠償を認める判決が出され、いずれも国が控訴したことにより、東京高等裁判所で控訴審が係属しておりますが、そのうち本庁の事件については、本年7月5日に結審し、9月13日の判決期日が指定されるに至っております。

 

 本年7月17日、岸田文雄首相は、上記最高裁判決を受け、原告らと面会し、「政府の責任は極めて重大だ。心から申し訳なく、政府を代表して謝罪申し上げる」と述べて直接謝罪し、訴訟を起こしていない人を含む幅広い被害者への補償制度の創設や、全国で続く訴訟で可能な限り和解による解決を目指す方針を表明しました。  これにより、旧優生保護法による被害の全面的回復に向けて舵が切られることになりましたが、一刻も早くすべての訴訟における原告らとの和解による全面解決が図られ、また、訴訟を提起していない人を含めたすべての被害者について被害回復を図るための補償制度を再構築することを強く要求するものであります。

 

 また、今回の大法廷での審理・判決に当たり、最高裁判所は、弁護団との協議に基づき、障害のある当事者及び傍聴者に向けた様々な配慮を提供しましたが、その一方で、当事者向けの手話通訳等の手配が公費で行われないことなどの課題も残りました。障害のある人にとって司法へのアクセスが困難となることは社会的障壁となり、権利侵害を放置することにつながりかねません。全ての人が司法手続を平等に利用できるようにするため、更に障害者権利条約に基づく手続上の配慮及び合理的配慮が求められます。

 

 旧優生保護法は、多数の障害のある方々に取り返しのつかない被害を与えただけでなく、優生思想に基づく差別・偏見を社会に深く根づかせました。  当会は、本判決を機に、被害回復が全ての被害者に行き届くまで真摯に取り組むとともに、優生思想に基づく差別・偏見のない、誰もが等しく個人として互いに尊重しあうことができる社会を実現するために、努力を続けていく決意です。

以上

2024年(令和6年)7月25日
静岡県弁護士会
会長 梅田 欣一

 

印刷用PDFはこちら