非司法競売手続の導入に反対する会長声明 

現在、政府の規制改革会議及び自民党司法制度調査会において、競売手続の合理化、迅速化を目的として、現行の裁判所による競売手続(司法競売手続)に加えて、裁判所が関与しない不動産競売手続(以下「非司法競売手続」という)を導入することの可否が検討され、さらに、法務省が設置した「競売制度研究会」においても同様の検討が行われ、平成20年3月に報告がなされているが、以下の通り、非司法競売手続を導入する必要性は存在せず、また、同手続きには多くの問題があるため、その導入には強く反対する。

現行の不動産競売制度は、民事執行法の改正と運用改善の積み重ねにより、円滑に機能している。平成7年当時30~40%であった売却率が同18年には全国では81%、東京地裁及び大阪地裁では100%に近い数字となっており、また、不動産競売事件の4分の3は申立から売却実施処分が行われるまでの間が6か月以内となっているという事実からも裏付けられているところである。したがって、非司法競売手続を創設する必要性を基礎付ける立法事実は存在しないといわざるを得ない。

また、非司法競売手続として検討されている案としては、(1)融資時に貸し手と債務者・所有者間で競売の実行方法を取り決め、(2)現況調査報告書・評価書・物件明細書(いわゆる「三点セット」)を作成せず、(3)売却価格の下限規制を設けず、(4)公開オークションにより換価するという特徴をもつ案等が検討されている。

しかし、三点セットが作成されないとなると、買受希望者に対する占有や権利関係に関する情報提供およびこれによる買受人の保護に欠け、一般人が競売手続に参加することが困難となり、ひいては、暴力金融や悪質不動産ブローカーのビジネス市場を提供してしまうおそれがある。売却価格の下限規制についても、対象物件の不当な廉売売却を防止して、もって債務者の財産を保護し、後順位抵当権者の回収への期待を保護する制度として機能しており、とりわけ、我が国ではリコース・ローン(物的担保から回収できない残債務を債務者・保証人から回収する)が主流であり、債務者・保証人にとって、担保物件がいかなる価格で売却されるかは重大な利害関係を有しており、売却価格の下限規制が持つ意義は大きなものがある。

また、融資時に貸し手と債務者等が競売実行方法を取り決めるという案も、債務者等の自由な選択を認めるかのようであるが、実は、融資時における力関係からすれば、債務者等の自由な意思を反映したものとはいえない。さらに、民間機関による公開オークションは、裁判所の関与がなされないこととなり、反社会的勢力の不動産競売手続への関与を容易にしてしまう虞が大きい。

以上のとおり、非司法競売手続は、これを新たに導入する必要性がないばかりか、また、不動産競売手続の公正や透明性の確保、債務者、所有者及び保証人の利益保護などの点において問題があり、たとえ現行の不動産競売制度との選択制(オプション制)であったとしても、当会は、その導入に強く反対するものである。

2008(平成20)年7月10日
静岡県弁護士会
会長 青島 伸雄

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