本日、水戸地方裁判所土浦支部は、1967(昭和42)年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件、いわゆる「布川事件」について、櫻井昌司氏、杉山卓男氏に対し再審無罪判決を言い渡した。
長年にわたり無実を訴えてきた櫻井・杉山両氏と、両氏を支え続けてきたその家族、支援者、弁護団の皆様の努力に敬意を表する。
本件は、もともと客観的証拠のないまま、あいまいな目撃証言と両名の自白を根拠に無期懲役刑が確定していた。
しかし、再審請求審において多くの新証拠が提出され、特に多数の検察官手持ち証拠が開示されたことによって、目撃証言は捜査官の誘導によって歪められたものであったこと、自白と客観的証拠が合致せず、自白には信用性がないことなどが明らかにされ、本日の無罪判決に至ったものである。
本件においては、自白偏重の捜査、別件逮捕・勾留を利用した、密室における長時間・長期間の取り調べ、自白の温床となった代用監獄の弊害など、えん罪の原因とされる刑事司法の問題点が典型的にあらわれている。静岡県内においても、1954(昭和29)年3月に島田市内において発生した殺人事件いわゆる島田事件において再審無罪が確定しているが、同事件も、自白偏重の捜査や密室における長時間・長期間の取り調べなど本件と同様の構造の下に生まれたえん罪事件であった。島田事件の反省が、本件の審理に生かされず、1989(平成元)年1月の島田事件の無罪判決から、今日まで22年以上の年月を要したことは、非常に遺憾である。
本件においては、確定審において、一部録音された自白テープが自白の信用性を高める作用を果たしていたこと、また、後に開示された自白テープに編集痕が明らかになったことは、取り調べの全面可視化を制度化する必要性を示している。
また、本件では、再審請求審になってはじめて、未提出証拠の中から多数の無罪方向の証拠が開示され、再審無罪判決の有力な根拠となった。真実の発見とえん罪の防止のためには、全面的な証拠開示がいかに重要であるかを示している。
このえん罪事件により、櫻井・杉山両氏は43年の長きにわたって強盗殺人犯の汚名を着せられてきた。検察官が、公益の代表者として本判決を謙虚に受け止め、控訴することなく確定させ、両氏を被告人の地位から解放することを強く要請する。
さらに、このようなえん罪の悲劇を二度と繰り返さないため、当会も、取り調べ全過程の可視化、代用監獄の廃止、全面証拠開示の制度化、身体拘束を受けたすべての被疑者を対象とする逮捕段階からの被疑者国選弁護の実現など、えん罪を生まない刑事司法の実現に全力で取り組むことを表明するものである。
静岡県弁護士会
会長 齋藤 安彦