民法の成年年齢を18歳に引き下げるについての意見書 

  1. 第1 意見の趣旨
    1.  民法の成年年齢は,現状において引き下げる改正を行うべきでなく,民法4条の20歳をもって成年とする現規定を維持すべきである。
    2.  仮に成年年齢を引き下げるとする民法改正がなされる場合にも,改正法の施行時期について,若年者の消費者被害防止のために,十分な消費者教育がなされるまでの準備期間,消費者被害の防止・救済のためのその他の措置が実施されるために必要な期間を確保した上で決定されるべきである。
  2. 第2 意見の理由
    1.  1項について
      1. (1) 民法4条は,20歳をもって成年と定めた上で,同法5条2項において,未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った法律行為については,取り消すことができる。
         このように,民法は未成年者取消権が規定されていることにより知識,社会的経験が未熟な未成年を法的に保護している。
         しかし,成年年齢を20歳から18歳に引下げるという民法改正がなされた場合,特段の措置がなされない限り,新たに成年となる18歳及び19歳の若年者は未成年者取消権を行使することはできなくなる。そのため,新たに成年となる18歳,19歳の若年者に対する悪質な商法,詐欺被害に遭ったとしても,未成年者取消権を行使して,被害救済を図ることができない。
         そして,2009年10月の法制審議会による「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」(以下「最終報告書」という。)において,「民法の成年年齢の引下げの法整備を行うには,若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である」とされ,成人年齢引下げの時期については,「これらの施策の効果の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識」が重視されている。
         また,内閣府消費者委員会も,2017年1月10日付け「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書」によって踏まえて,成年年齢の引下げにより若年者の消費者被害の拡大への懸念と被害防止及び救済の施策の必要性を指摘している。
      2. (2) 若年者については,その未熟さや社会経験の乏しさから,適切に情報を得て必要に応じて交渉を行い,契約判断を行う能力に脆弱な面があることから様々な消費者被害が発生している。
         特に,マルチ商法,キャッチセールスやアポイントメントセールス,サイドビジネス,エステなどの医療美容サービス,インターネット取引などにおける被害が多く見られる。若年者は,学校等における先輩後輩関係や友人関係等の影響を受けやすいことから人間関係を介して被害が拡大し,また,被害に遭ったときの対応能力が乏しいため問題を抱え込んでしまい解決ができず,被害が拡大することも少なくない。
         国民生活センター「相談急増!大学生に借金をさせて高額な投資用DVDを購入させるトラブル」(平成26年5月8日)によれば,未成年者取消権がなくなる20歳からの相談件数が増えているが,これは,未成年者取消権が悪質業者に対する抑止力になっていること,及び,その抑止力がなくなる年齢に達すると消費者被害に遭う可能性が高くなることを示すものである。
         したがって,民法の成年年齢が18歳に引き下げられれば,18歳,19歳の若年者が未成年者取消権を失い,問題業者や悪質業者のターゲットとされることは確実である。
      3. (3) 以上からすれば,2017年秋の臨時国会において成年年齢引下げの民法改正法案提出に向けた具体的な動きがあるものの,民法の成年年齢引下げに先立って,若年者の消費者被害の防止・救済のための法的施策が必要不可欠であるにもかかわらず,現時点においても若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が十分になされていない以上,現時点では,民法を改正して成年年齢の引下げを行うことに反対である。
    2.  2項について
       仮に成年年齢を引き下げるとする民法改正がなされる場合にも,改正法の施行時期について,若年者の消費者被害防止のために,十分な消費者教育がされるまでの準備期間を確保するとともに消費者被害の防止・救済の措置が実施されるために必要な期間を確保することが重要である。
       具体的な措置としては,被害防止及び被害回復のための立法措置と消費者教育の充実が必要である。
       これに関して,内閣府消費者委員会の2017年1月10日付け「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書」においても,成年年齢が19歳に引き下げられた場合の若年成人消費者の保護として,①消費者契約法を改正して,若年成人は,成熟した成人に比して,契約についての知識・経験・交渉力等が十分とはいえないことがあるため,若年成人の消費者被害の防止・救済のためには,事業者が,若年成人に配慮すべき義務を明らかにするとともに,事業者が,若年成人の知識・経験等の不足その他の合理的な判断をすることができない事情につけ込んで締結した不当な契約を取り消すことができる規定を設けること,②特定商取引法を改正して,訪問販売や連鎖販売取引等の特定商取引において,若年成人等の判断不足に乗じた勧誘行為を行政処分対象行為として規制すること,③小中高等学校,大学・専門学校に対する消費者教育の強化,充実,法教育・金融経済教育に取り組む関係省庁・機関との連携を通じて,消費者教育の取組強化を図ることが実際に具体的に提言されている。
       そのため,仮に成年年齢を引き下げるとする民法改正がなされる場合にも,改正法の施行時期について,若年者の消費者被害防止のために,上記のような消費者教育や消費者被害の防止・救済のためのその他の措置が実施されるために必要な期間を確保する必要がある。

 

2017(平成29)年8月30日
静岡県弁護士会
会長 近藤 浩志

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