2022年(令和4年)10月11日
静岡県知事 川勝 平太 様
静岡市長 田辺 信宏 様
静岡県弁護士会 会長 伊豆田 悦義
静岡県弁護士会災害対策委員会 委員長 青島 伸雄
- 1 はじめに - 相談活動の中で見えてきた課題
- (1) 本年9月23日から24日にかけて本県に接近した台風15号に伴う豪雨災害(以下「本災害」と言います。)に関し,当会及び静岡県災害対策士業連絡会(※)では,次のとおり,被災された市民・県民の方からの無料相談に対応してきました。(添付の案内チラシをご参照ください。)
- ① 電話による無料相談(静岡県弁護士会) 開始日:9月28日 相談申込件数:10月7日現在108件
- ② 静岡市内3区での派遣無料相談(静岡県災害対策士業連絡会) 開始日:10月3日 相談実施件数:10月7日現在100数十件
- ※ 県内の弁護士,司法書士,行政書士,建築士,技術士,税理士,公認会計士,社労士,土地家屋調査士,不動産鑑定士らが加入・所属する団体により組織され,静岡県との間で災害時の相談業務に関する協定を締結しています。
- (2) 本災害に関しては,上記のとおり,相談開始から1週間強というわずかな期間で,実に200件を超える相談が寄せられています。 そして,これらの相談に応じる中で,被災された市民・県民からの切実な要望として,速やかに解決しなければならない「住まいの確保」に関する課題が明らかになりましたので,静岡県及び静岡市に対し,以下のとおり緊急に要請を行う次第です。
- 2 「住まいの確保」に関する現状及び課題について
- (1) 多くの被災者が住家浸水後の住まいを確保できていない状況について 上記の無料相談に来られた被災者のうち相当数の方が,浸水後の住まいを確保できず,車中泊を続けていたり,ビジネスホテルを転々としたり,肩身の狭い思いで親せき宅や知人宅に仮住まいをしていることが判明しました。 こうした方は,賃貸住宅の1階や平屋の住宅に居住していた方に多いです。 また,2階建ての物件に居住している方の中には,浸水して住めなくなっている1階を避けて2階で生活している方が多くいますが,それらの方々も,他に居住できる適切な場所がないために,やむを得ずそのような選択をしているに過ぎません。 そして,氾濫水により一部が汚染された住宅での生活を継続することは,アレルギーその他の健康被害の原因ともなり得ます。 さらには,土砂災害のあった地域で,避難所が開設されていないことから,雨が降るたびに避難を余儀なくされ疲弊しきっている世帯もあります。
- (2) 住まいが確保できない要因について 住家浸水の被害を受けられた多くの方々,特に賃貸住宅の1階に居住していた方々が,現在も住まいを確保できていない理由の1つは,公営住宅とのマッチングができていないことによります。 すなわち,静岡市及び静岡県は,公営住宅の一時入居を支援策としてとっていますが,清水区の浸水エリアの中心付近(鳥坂,押切など)には,空きがある公営住宅が存在しません。そのため,被災された方々は,一時入居先の候補として,元の居住地域から遠く離れた清水区三保や葵区の公営住宅物件を紹介されることになります。 しかし,以下のような理由によって,紹介された公営住宅には入居することができない被災者が,実際に多数存在しています。
- ① 高齢や障害により公営住宅の1階やバリアフリーの住宅でしか生活ができないが,そうした物件の空きがない。
- ② ペットを飼っているが,公営住宅ではペットの飼育が許可されていないため,ペットを残して入居できない。
- ③ 小中学校在籍中の子どもがおり,転居により学区が変更となり転校になってしまう。
- ④ 持病による近隣の病院への通院が必要で,車などの移動手段もないため,遠方への転居が難しい。
- ⑤ その他
- また,公営住宅の一時入居という施策自体を知らない被災者も多く見受けられましたが,そもそも現時点の判明分に限っても静岡市内で床上浸水が1600件以上(10月7日午前10時現在)とされる被害件数に照らせば,公営住宅の一時使用では到底戸数が足りません。
- 3 「住まいの確保」に関して緊急に求められる方策について
上記のような現状及び課題が存在する中で,本災害による被災者の生活再建を強く後押しするためには,緊急に,以下の方策を実施することが求められていると考えます。
- (1) 公営住宅の入居要件の緩和 被災者に限り,ペットとの同居を一時的,例外的に許可するなど,被災者の状況に応じて入居要件を柔軟に緩和することが必要です。
- (2) 応急仮設住宅の早期提供
- ア 一刻も早い応急仮設住宅の提供開始 静岡市から提案された公営住宅への入居が難しい方などのために,静岡市と静岡県が連携し,一刻も早く応急仮設住宅の提供を開始する必要があります。 特に借上げ型仮設住宅(通称みなし仮設)であれば,通常のアパート探しと同様ですので,高齢者,障害者,子どもの学区変更が難しい家族世帯などが,近隣での住居を確保しやすくなります。
- イ 応急仮設住宅の提供において留意されるべき重要事項 その際,以下の点が重要となります。
- ① 少なくとも半壊以上の世帯を対象とすること 応急仮設住宅の入居要件は,大規模災害では年々緩和されており,熱海市伊豆山土石流災害でも,半壊以上の世帯は仮設住宅の入居が可能となりました(自ら住まいを確保できない世帯であることは前提)。 こうした中で,今回の台風15号災害において,仮に応急仮設住宅の入居要件が全壊世帯に限定されてしまうと,現在住まいを確保できていない被災者の救済にはほとんどつながりません。 そのため,少なくとも半壊以上の罹災証明を取得した世帯を対象とする必要があります。
- ② トレーラーハウス,ムービングハウスなども活用すること 借上げ型仮設住宅では,その要件として,新耐震基準(昭和56年6月1日以降)の物件であることが求められています。 しかし,特に中山間地域などでは,こうした新耐震基準の民間の賃貸物件が豊富に存在するわけではありません。 そのため,国でも認められているトレーラーハウスやムービングハウス型の応急仮設住宅を積極的に活用すべきです。
- ③ 応急仮設住宅の対象外となった被災者の自治体独自の救済 仮に,応急仮設住宅の入居対象が限定され,半壊等の罹災証明の世帯に入居資格が認められなかった場合でも,住まいを確保できない被災者を放置するわけにはいきません。 そこで,そうした場合でも,静岡市,静岡県の独自の支援策として,高齢者,障がい者,子どもの学区変更が難しい世帯,ペットを飼育しており公営住宅の入居が難しい世帯などに,応急的な住まいの提供や支援を行う必要があります。 この点,静岡市と同様に多数の浸水被害を生じた磐田市では,10月5日付で「借上げ型応急住宅の提供について」を公表しています。そして,磐田市の施策の対象者は,全半壊世帯に限られることなく,「床上浸水の被害があった方」,「土砂災害特別警戒区域及び土砂災害警戒区域に居住する方」,さらには「そのほか災害により住宅に困窮している方」にまで拡大されており,まさに,被災からの生活再建の基礎である住宅の確保すらままならない住民が多く存在することをいち早く察知し,その全ての方々に寄り添い,被災からの生活の立て直しを力強く支援しようとする点で,理想的なものです。 そして,このような取組は,県内の被災市町において,等しく実施されるべきものです。
- ④ 罹災証明書の早期交付 応急仮設住宅の入居には,基本的に罹災証明書が必要となります。 そのため,他の自治体からの職員派遣を最大限活用するなどして,可能な限り早期に罹災証明書の交付をする必要があります。
- ⑤ 罹災証明のための住家被害認定調査における第一次調査の活用 罹災証明の判定のための住家被害認定調査には,第一次調査(浸水の深さなどで判定する手法)と,第二次調査(家の内外を隈なく調査して100点満点で住宅の損壊具合を判定する手法)がありますが,第二次調査には多大な時間を要する上,被害実態より判定が低くでる傾向にあります。 そのため,本災害に関しては,最大限第一次調査を活用し,また,浸水エリア全体の被害を一括して判定する方法などについても積極的に活用する必要があります。
- ⑥ 住宅の施策についての早期かつ効果的な広報 住む場所に関わる問題は,生命や身体,健康への影響が大きく,最も優先的に解決すべき問題の1つであるため,上記各施策については早期かつ効果的な広報をご検討いただきたくお願いいたします。なお,短期間のうちに転居を繰り返すことは,被災者にとっても相当の心身及び経済的な負担となることから,可能な限り,幅広い世帯が利用可能な形で応急仮設住宅の提供について早期に情報発信いただくことを求めます。
- (3) 避難所の開設 応急仮設住宅の提供までには一定の時間を要する一方で,当会の相談で聞かれた声は,今日,明日の住まいがないという切実なものです。 そのため,こうした被災者に緊急に避難する場所を提供すべく,公営住宅の入居が難しい被災者には,避難所や福祉避難所を開設することも必要であると考えます。 また,その際には,ホテルや旅館の活用も考えられます。
以上