公費解体の対象拡大に関する要望書 

公費解体の対象拡大に関する要望書

 

2022年(令和4年)12月22日

 

静岡県 御中

台風15号により災害救助法の適用を受けた各自治体 御中

 

静岡県弁護士会 会長 伊豆田 悦義

静岡県弁護士会災害対策委員会 委員長 青島 伸雄

 

冠省 静岡県内に甚大な浸水,土砂崩れ等の被害をもたらした令和4年台風第15号(以下「台風15号災害」といいます。)に関し,発災直後からの各自治体による復旧,復興,被災者支援に向けたご尽力に対し,心より敬意を表しますとともに,当会及び静岡県災害対策士業連絡会(以下「士業連絡会」と言います。)が実施する被災者支援活動に対しても,最大限のご協力と連携をいただいていることにつき,心より感謝を申し上げます。

さて,台風15号災害について,当会及び士業連絡会が実施する無料相談に寄せられた多くの被災者の声を踏まえ,公費解体の適用拡大について,以下のとおり要望いたします。

 

  1. 第1 要望の趣旨

    当会は,静岡県及び各被災自治体に対し,これまでの他の自然災害における被災自治体と同様に,公費解体の対象を全壊以外の家屋にも拡大するよう,積極的な検討を求めます。

     

  2. 第2 要望の理由
    1. 1. 公費解体制度とは,ご承知のとおり,自然災害により被災した建物の解体や撤去を,災害廃棄物処理事業の一環として,所有者の承諾を得て公費負担で行うものです(以下この制度を利用した解体等を「公費解体」といいます。)。
       また,被災建物の公費解体は,原則として全壊の建物が対象とされていますが,特定非常災害特別措置法の適用を受けた自然災害(以下「特定非常災害」といいます。)等においては,国庫事業として半壊以上の家屋にその対象を拡大する運用がなされています。
       さらに,特定非常災害以外の自然災害においても,たとえば,令和3年7月の熱海市伊豆山地区の土石流災害では,熱海市の事業として,半壊以上の家屋に公費解体の対象を拡大されています。このように,特定非常災害の該当の有無に関わらず公費解体を全壊以外の家屋にも拡大する運用は,被災自治体の判断により積極的に行われているところです。
    2.  

    3. 2. ところで,台風15号災害により,県内では,静岡市に限っても,2400棟に迫る半壊以上の被害家屋が発生しています。
       また,当会と士業連絡会では,被災者に対して,無料で,電話相談や静岡市と連携しての連日の現地相談を実施し,さらに,各被災地区でも,夜間や土日などを中心にしてこれまでに20か所以上で説明会兼相談会を実施してきました。これらの無料相談を利用された被災者の数は,延べ1100世帯に達しており,今回の災害の被害の大きさを表しています。
       そして,この延べ1100世帯余に及ぶ相談には,半壊以上の罹災証明の交付を受けた世帯が多数含まれているところ,この中の少なからぬ被災世帯が,公費解体制度の拡大適用を求めています。
    4.  

    5. 3. 今般の台風15号災害では,現時点において,公費解体の対象は,原則どおり全壊世帯のみに限定されており,県内ではわずか9世帯のみ(静岡県による令和4年11月7日付け公表資料による。)にとどまっています。
       しかしながら,前述のとおり,当会がかかわる被災者相談の中では,全壊に至らない半壊以上の世帯からも,複数,公費解体の対象を拡大する要望がでているのが実情です。
       すなわち,これまでの相談においては,半壊の罹災証明の判定を受けた家屋では,修理費用について800万円前後の見積提示が多くみられており,築年数の浅さや建築した住宅メーカー等によっては1000万円を大きく超える例も散見されるという実情があります。そのため,被災者としては,高額の修理費用の負担から被災家屋の修補を断念し,家屋の解体を前提とした生活再建を検討することも少なくありません。
       また,裏山や敷地の崩落などの被害を受けた被災者の場合には,二次災害の危険等から元の家屋での生活再建を断念し,家屋の解体を余儀なくされる場合も多いです。
       ところが,現在は,公費解体の対象が全壊のみであるために,高額な修理費用も負担できず,また,修理以外の手段を選ぼうにも解体費用の負担もできずに窮地に陥り,生活再建が前に進まない被災者も少なくありません。
       このような公費解体の対象の狭さが,近時の同じ県内の自然災害であるにも関わらず,半壊以上の家屋を公費解体の対象とした熱海市伊豆山地区の土石流災害の被災者と比較して大きな支援の差となって,台風15号の被災者を苦しめているのです。
    6.  

    7. 4. 加えて,公費解体の対象を拡大し,被災家屋の解体を後押しすることは,当該被災者の生活再建の上で大きな支援になるだけでなく,危険な被災家屋の迅速な撤去により地域住民の衛生面も含めた安全が確保されるという側面や,解体後の敷地の活用により地域の復興に資するという側面もあることも極めて重要です。
       このような視点に立てば,各自治体の財源を投じてでも公費解体の対象を拡大する意味は決して小さくありません。

 

以上から,当会は,各被災自治体に対し,これまでの他の自然災害における被災自治体と同様,公費解体の対象を全壊以外の家屋にも拡大するよう,積極的な検討を求め,本要望書を提出します。

草々

 

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