長期避難世帯の解除に関する申入れ 

長期避難世帯の解除に関する申入れ

 

2022年(令和4年)8月25日

 

静岡県知事 殿

内閣府政策統括官(防災担当) 殿

 

静岡県弁護士会 会長 伊豆田 悦義

同 災害対策委員長 青島 伸雄

 

謹啓 平素より,当会の災害対策及び被災者支援活動にご理解とご協力を賜り,誠にありがとうございます。

 

さて,2021年(令和3年)7月3日に発生した熱海市伊豆山地区の土石流災害(以下,「本件災害」という。)では,死者27名(災害関連死1名を含む。),行方不明者1名,家屋全壊53棟,半壊11棟など甚大な被害が発生しました 。1

当会は,本件災害発生直後から,被災者無料電話相談や熱海市での被災者向け相談を実施してまいりました。近時は,被災者の仮設住宅を訪問して今後の生活再建に向けた相談を伺う活動も始めています。

これらの被災者支援活動の中で,当会は,被災者生活再建支援法(以下,「支援法」という。)第2条第2号ハに規定する長期避難世帯の認定(以下「長期避難世帯認定」といいます)の解除時期について,従来の災害における運用では,被災者が十分な支援を受けられず,ひいては,被災地復興にも悪影響を与えかねないことを強く懸念しています。

報道によれば,来夏には伊豆山地区の警戒区域の指定が解除される見通しとのことです。警戒区域の指定解除に伴い,長期避難世帯認定の解除時期も検討されることになると拝察しますが,当会は,支援法の趣旨に沿う運用がなされるよう,下記のとおり申し入れます。

謹白

 

 

  1. 第1 申入の趣旨

    本件災害で長期避難世帯認定を受けた被災者(以下,「認定被災者」という。)が,伊豆山地区の復興事業が完了した後に同地区に戻り住宅の購入等を選択する場合においても,支援法における加算支援金(以下,「加算支援金」という。)の申請や,独立行政法人住宅金融支援機構(以下,「住宅金融支援機構」という。)の災害復興住宅融資(リバースモーゲージ型融資を含む,以下同じ。)の申込ができるようにするため,

     

    1. 1. 静岡県に対しては,本件災害における長期避難世帯認定について,警戒区域の指定が解除された後においても,伊豆山地区の復興事業が完了し,認定被災者が伊豆山地区に現実に帰還できるようになるまでは,解除しないこと,
    2.  

    3. 2. 国に対しては,警戒区域等の指定を解除した後においても,ライフラインの復旧が未了であるなどの理由により認定被災者が元の被災地に戻って居住することが難しい場合には,実際の居住が可能となるまで長期避難世帯として扱ってよい(長期避難世帯の認定を解除しなくてもよい)ことについて,長期避難世帯認定がなされた自然災害ごとに,被災地都道府県に対して,適時に分かりやすく周知すること,

     

    を,それぞれ強く要望します。

     

  2. 第2 申入の理由
    1. 1. 本件災害では,2021年(令和3年)8月16日に熱海市により災害対策基本法第63条第1項に基づく警戒区域が設定され,以後,同区域への立ち入りは原則禁止されました。
       そして,同区域の全壊以外の世帯について,静岡県は,同年12月16日に,長期避難世帯認定を行いました。
       当該認定がなされたことで,認定被災者は,住宅の被害の有無や程度に関わらず,支援法において全壊世帯と同様に扱われ,基礎支援金(100万円。ただし単身世帯は4分の3)及び住宅の再建方法に従って支給される加算支援金(建設・購入200万円,補修100万円,賃借(公営住宅以外)50万円。ただし単身世帯は各4分の3)の申請が可能となっています。
       また,長期避難世帯認定により,認定被災者は,条件を満たせば,住宅金融支援機構が提供する災害復興住宅融資の利用も可能となりました。
       伊豆山地区に更なる土石流など二次災害の危険があり,元の住居に戻れない現実があることに鑑みれば,この長期避難世帯認定は,住宅損壊の程度で区別せず,住居に戻れない被災者に寄り添った適切な対応であり,認定した静岡県及び前提となる熱海市の各判断は評価されるものです。なお,この認定は,当会が2021年(令和3年)8月2日付けで静岡県等へお送りした「熱海市伊豆山地区における住宅被害がない帰還困難者に対する支援措置の申入れ」に沿うものでもあります。
    2.  

    3. 2.(1)ところで,認定被災者は,長期避難世帯認定が解除された時点で,支援法に基づく各支援金の申請資格を失い,併せて,住宅金融支援機構が提供する災害復興住宅融資の申込資格も失います。
       そのため,認定被災者に対する支援においては,長期避難世帯認定解除の時期が大きな影響を与えることになります。
       そして,従来の災害では,長期避難世帯認定の解除が,警戒区域指定の解除と同時期に行われてきました。長期避難世帯認定は,被災地域の安全性が確認された時点で解除が可能となるためです。
       ところが,この「同時期の解除」という運用が看過しがたい問題を生じさせています。
      (2)仮に,警戒区域指定が解除された後,直ちに長期避難世帯認定も解除されてしまうと,被災地に戻る選択をした認定被災者は,警戒区域指定の解除により住宅地域への立ち入りは可能になったものの,未だ元の被災地で如何なる生活が可能か見通しも立たない時期に,最大200万円の加算支援金を申請する機会を失うことになります。
       すなわち,加算支援金は,住宅の再建方法によって金額が異なることから,申請・受給には具体的な契約書等の疎明資料が必要とされています。また,再建場所や方法を決めるためには,住宅の損壊状況や周辺の復興状況を十分に把握する必要があり,警戒区域等の設定期間中あるいは地域全体の復興状況が不明確な段階では,認定被災者にとって,被災地での再建・補修等を決断し,その契約書等を取得した上で加算支援金を申請することは,事実上不可能なのです。
       加えて,認定被災者は,住宅再建の方法等について検討するための十分な情報・時間のないまま,災害復興住宅融資を利用する資格も失うことになります。
       このように,警戒区域の指定と長期避難世帯認定が同時期に解除されると,元の被災地に戻ろうとする長期避難世帯は,事実上,加算支援金を申請できず,災害復興住宅融資を受けることも困難となるのです。
       こうした運用が被災者支援の在り方として不適切であることは明らかです。
      (3)また,警戒区域指定が解除された直後で,未だ被災地域の復興計画が不明確な段階にもかかわらず長期避難世帯認定が解除されてしまうことになれば,認定被災者は,その認定が解除される前に加算支援金を得ようとする場合,被災地以外での住宅再建という選択をするしかなくなり,被災地外への転出を助長することにもなります。
       被災地を離れ元の住居以外で住宅再建を図るという被災者の選択は,被災地に元の住民が戻らない負の効果により,被災地の復興を阻害する可能性があります。
    4.  

    5. 3. この点,国は,2011年(平成23年)6月1日に,内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(災害復旧・復興担当)名で,各都道府県等に対して,「被災者生活再建支援法の運用に係るQ&Aの送付について」(府政防第520号)と題する文書を送付しています。同文書に添付された,被災者生活再建支援法Q&Aでは,Q42「長期避難世帯認定の趣旨と避難指示等との関係如何」との問いに対し,「通常は,避難指示等が解除されると長期避難世帯の認定も解除することとなるが,避難指示等の解除後もライフラインの復旧に期日を要する場合には,ライフラインの復旧により,居住が可能となるまで,長期避難世帯として取り扱うことができる。」と回答されています。
       現在,熱海市伊豆山地区の復興に関しては,熱海市から,小規模住宅地区改良事業(以下,「本件事業」という。)の採用が提案されているものの,具体的な事業の完了や,その後の住民の帰還までには,更に数年単位の時間を要します。このような伊豆山地区の状況は,まさに前記の「ライフラインの復旧に期日を要する場合」に当てはまるといえます。
       本件災害において,警戒区域指定の解除後も,本件事業が完了し,被災住民が現実に元の被災地で生活できる状況になるまで長期避難世帯認定を解除しない対応が可能であることは,国も認めているのです。
       そして,このような運用は,長期避難世帯が被災地に戻って住宅を再建する動機付けとなり,ひいては,被災地にとっても有益となります。まさに,支援法第1条に記載された「自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者に対し,(中略)被災者生活再建支援金を支給することにより,その生活の再建を支援し,もって住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資することを目的とする。」との趣旨に合致するものです。
    6.  

    7. 4. 以上より,当会は,第1「申入れの趣旨」記載のとおり,静岡県に対しては,長期避難世帯の認定解除の時期について,伊豆山地区の本件事業又はそれに代わる復興事業の完了までは行わないよう強く要望するとともに,国に対しては,上記の問題は,本件災害に限らず,今後のどの被災地でも起こり得るものであるから,今後,長期避難世帯の認定がなされた被災地都道府県に対しては,警戒区域等の解除後の長期避難世帯の解除時期について,被災地の復興状況に照らした柔軟な判断が可能であることについて積極的に周知するよう強く要望いたします。

以上

 

1 静岡県2022年(令和4年)6月24日付け「熱海市伊豆山地区土砂災害の被害と対応について(統括情報)」より

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