憲法解釈の変更により,集団的自衛権の行使を容認することに反対する決議 

政府は,集団的自衛権の行使を容認するため,早ければ今国会中にも,集団的自衛権の行使は自衛権の範囲を超えるものであって憲法上許されないとしてきた従前の憲法解釈を変更する閣議決定を行う方針を打ち出している。

しかしながら,時の政府の判断で,長期間定着してきた憲法の基本原理に関わる憲法解釈の変更を行うことは,憲法を最高法規とし,国家権力に対して憲法による縛りをかけることによって国民の権利・自由を擁護するという立憲主義の観点から断じて許されない。

 

日本国憲法の三大原理の一つである平和主義は,第二次世界大戦の悲惨な体験を踏まえ,戦争についての深い反省に基づいて掲げられた基本原理である。すなわち,日本国憲法は,第9条において,侵略戦争を含めた一切の戦争と武力の行使及び武力による威嚇を放棄し,戦力の不保持と,国の交戦権を否認し,比類のない徹底した戦争否定の態度を打ち出しているのである。

 

これまで日本政府は,かかる憲法9条の下,日本国は主権国家として固有の自衛権を有することは当然であるとしつつ,日本国が憲法上保持し得る自衛力は,自衛のための必要最小限度のものでなければならないとし,自衛権の発動としての武力行使についても,(1)日本国に対する急迫不正の侵害があること,(2)この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと,(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきであることという三要件に該当する場合に限られると解してきた。

そして,自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利としての集団的自衛権の行使は,我が国を防衛するための必要最小限度の範囲にとどまるべきとする自衛権の範囲を超えるものであって憲法上許されないと解してきた。

 

第二次世界大戦後に発生した戦争の数々が集団的自衛権の名の下に行われてきたことは明らかな事実である。自国に対する直接の侵害行為がないにもかかわらず武力行使に及ぶ集団的自衛権の行使が,日本国憲法の基本原理である徹底した平和主義の理念に相反することは明らかである。

集団的自衛権の行使が許されないとするこれまでの政府解釈は,日本国憲法が徹底した平和主義を基本原理として掲げる以上,当然の帰結であるといえる。

 

かかる解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認することは,実質的には,憲法9条を改正するに等しい。すなわち,政府が行おうとする憲法「解釈の変更」は,本来,憲法改正手続を通じて,主権者である国民の判断を経なければ許されないはずの重大な変更である。

それにもかかわらず,政府の独断で,従前の定着した憲法解釈を変更し,集団的自衛権の行使を容認する姿勢に転化することは,立憲主義を無視した暴挙である。

国家権力の濫用を防ぎ,個人の権利・自由を保障する立憲主義を否定する政府の行為を容認することは到底できない。

 

当会は,立憲主義を堅持し,憲法の基本原理を守るため,政府が憲法解釈を改変して,集団的自衛権の行使を容認することに強く反対する。

 

上記,決議する。

 

2014(平成26)年6月6日
静岡県弁護士会定時総会

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