11月3日「文化の日」は、日本国憲法公布の日であり、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」日と規定されています(国民の祝日に関する法律第2条)。 そして、日本国憲法は、個人の尊重を中核とした基本的人権の尊重、国民主権、恒久的平和主義の3原則を定めています。
基本的人権の尊重に関していえば、えん罪は、自由や名誉といった基本的人権を侵すものであり、国家による最大の人権侵害の一つです。 当会は、えん罪被害者の速やかな救済のために、刑事訴訟法の再審手続規定(再審法)を憲法の理念に沿ったものとすべく、本年4月に「再審法改正実現プロジェクトチーム」を立ち上げ、県内の各議会に請願や陳情を行う等の活動をしてきました。
その結果、現時点において、県内議会については、36議会のうち、静岡市議会と浜松市議会を除いた、県議会と33の市町の議会で再審法の改正を求める意見書が採択され、県内選出の国会議員については8名、市町の首長については20名、各種団体については110団体から、賛同メッセージをいただいております。
本年9月26日には、いわゆる袴田事件において、静岡地方裁判所で無罪判決が出されたところ、10月9日に検察官が上訴権を放棄したことにより、無罪判決が確定しました。
9月29日に静岡市内で開催された市民集会(袴田事件判決報告集会兼再審法改正実現キャラバン)では、袴田巖さんご本人から、「完全な無罪勝利」、「ありがとうございました。」という言葉を直接お聞きすることができました。
ただ、上訴権放棄に先立って発表された検事総長談話では、再審開始決定に対する検察官の不服申立てによる審理の長期化や証拠開示に関する検察官の対応の問題性についての言及はありませんでした。
上記談話は、検察側の自覚と現行の再審法の運用では、えん罪被害者の迅速な救済と自由や名誉の回復は困難であり、再審法改正による解決が必要であることをあらためて浮き彫りにしたものといえます。
再審法に関する国民の関心が高まっており、改正への動きが着実に広がりを見せている今こそ、当会は、再審法改正の実現に向けての活動をより一層強めていく所存です。
また、国民主権に関していえば、当会は、衆議院憲法審査会などで議論されている緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正案について、国民主権原理に基づく国民の選挙権の著しい制約となるとして、これに反対する意見を表明しております(2024年(令和6年)3月28日当会会長声明)。
憲法によって国家権力を抑制し、もって国民の人権を保障するという立憲主義の理念からすれば、憲法改正に関しては極めて慎重な議論や手続が必要とされます。
さらに、恒久的平和主義に関していえば、2022年(令和4年)2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ウクライナでの戦争が継続しており、未だ終わりが見えない状況が続いております。また、2023年(令和5年)10月7日、パレスチナの過激派組織ハマスによるイスラエル攻撃から始まったパレスチナ・イスラエルの紛争も継続し、中東での戦闘は激化しています。いずれも民間人を含めた多数の犠牲者を出しております。また、ガザ地区では、戦闘状態の継続により処理されない汚水や瓦礫が放置されたことにより、四半世紀以上にわたって発症例が皆無であった感染症であるポリオ(脊髄性小児麻痺)の発症が確認されております。このような戦闘行為により、小児等の弱者が犠牲になっているのです。テレビやインターネットで流れる映像を見るだけで心が痛みます。
日本国憲法は、前文において「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と謳い、第9条では戦争を永久に放棄すると定めています(恒久的平和主義)。
当会は、今できることとして、「戦争は最大の人権侵害」との理念の下、本年11月に「平和を守る全国弁護士会アクションの日」として静岡市の青葉緑地付近で街宣活動を行い、平和を守るための運動を展開する予定です。
当会は、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」日にあたり、日本国憲法に基づく社会の実現を目指して今後とも努力を重ねるとともに、弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現に向けて、より一層真摯に活動を行なっていくことを決意いたします。
静岡県弁護士会
会長 梅田 欣一
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