静岡地方裁判所は、本年9月26日、いわゆる袴田事件の再審公判において、袴田さんに無罪判決を言い渡したところ、これが10月9日に確定した。
この度の無罪判決は、①袴田さんが本件犯行を自白した本件検察官調書は、黙秘権を実質的に侵害し、虚偽自白を誘発するおそれの極めて高い状況下で、捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べによって獲得され、犯行着衣等に関する虚偽の内容も含むものであるから、実質的にねつ造されたものと認められる、②袴田さんの犯人性を推認させる最も中心的な証拠とされてきた5点の衣類は、1号タンクに1年以上みそ漬けされた場合にその血痕に赤みが残るとは認められず、本件事件から相当期間経過後の発見に近い時期に、本件犯行とは無関係に、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、1号タンク内に隠匿されたものである、③5点の衣類のうちの鉄紺色ズボンの共布とされる端切れも、捜査機関によってねつ造されたものである、というように捜査機関による3つのねつ造を認めるという画期的なものであり、当会はこれを高く評価する。
無罪判決が確定したことにより、袴田さんは、ようやく完全な自由を手にすることができた。袴田さんには、今後、穏やかな人生を過ごしてほしいと願うばかりである。
袴田事件では、1966年(昭和41年)8月に袴田さんが逮捕されてから本年9月に無罪判決を得るまでに58年間、1981年(昭和56年)4月の第1次再審請求から43年間もの歳月を要しており、また、2014年(平成26年)3月に再審開始決定がなされてから2023年(令和5年)10月に再審公判が開始されるまでも約9年7か月間もの歳月を要し、袴田さんは、30歳で逮捕され、現在88歳となっている。 つまり、袴田事件では、無罪判決を勝ち取るまでに途方もなく長い年月がかかり、袴田さんは50年近く身体を拘束され、しかも三十数年は死刑執行の恐怖のもと身体を拘束されていたのである。
このように、もともと無実の人であった袴田さんがえん罪を晴らすために途方もなく長い時間がかかってしまったのは、言うまでもなく現行の刑事訴訟法の再審規定(再審法)に問題があるからにほかならない。
当会は、これまでも再審法の問題点を訴えてきているが、袴田さんの無罪が確定し、再審法に関する国民の関心が高まっており、静岡県内においても、当会からの請願などをきっかけとして、既に静岡県及び県内市町の36の議会のうち34の議会において再審法の改正を求める意見書が採択されており、再審法改正への動きが着実に広がりを見せている。 当会は、今後も日本弁護士連合会、関東弁護士会連合会及び他の弁護士会等とともに、再審法改正の実現に向けての活動をより一層強めていき、二度と袴田事件のような事態が生じることのないように尽力していく所存である。
静岡県弁護士会
会長 梅田 欣一
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