子どもの権利条約の理念に基づいて子どもの権利が保障される社会の実現を求める会長声明 

世界共通に子どもの権利保障を実現しようとする子どもの権利条約は、1989年(平成元年)に国際連合において採択されました。日本は、同条約を1994年(平成6年)に批准しましたので、2024年(令和6年)は、30周年の節目の年となります。

子どもの権利条約は、それまで権利の客体として扱われていた子どもを、権利の主体として捉えた上で、子どもに様々な権利を保障しています。具体的には、差別の禁止(2条)、子どもの最善の利益(3条)、生命・生存・発達への権利(6条)、子どもの意見の尊重(12条、いわゆる子どもの意見表明権)を一般原則、指導原理として、子どもの権利の実現を求めています。

日本では、2023年(令和5年)4月、憲法及び子どもの権利条約に則り、「こども施策」に関する基本理念を定めた「こども基本法」が施行されて、同年末には「こども大綱」が決定されました。また、同法成立後に改定された生徒指導提要や閣議決定された教育振興基本計画においても、子どもの権利に関する記載がなされ、批准から30年経過し、子どもの権利が保障される社会への歩みを進めています。

その一方で、日本における子どもの権利の保障には、現時点で多くの課題を残していると言わざるを得ません。2022年度(令和4年度)には、子どもの自殺は初めて500人を超えて高止まり状態にあり、児童相談所の虐待対応件数は約22万件、いじめ重大事態件数は923件、小中学校の不登校児童生徒数は約30万人といずれも過去最多となっています。

子どもの権利が保障されるためには、私たち大人が、子どもに関わることを行なうときに、子どもにとって最もよいこと(子どもの最善の利益)を優先的に考えなければなりません。そして、子どもの最善の利益を達成するためには、子どもが一人の人間として尊重されることが不可欠です。そのためには、子どもには自分に関係することについて自由に物事の見方や考え方を表現できる、意見を言える権利(意見を言わない選択をする権利も含みます。)が確保されなければなりません。この意見を言える権利は、子どもの発達に応じて、十分な配慮がされなければなりません。子どもの最善の利益を考えることと、子どもの意見を聴くことは互いに補い合う関係にあります。子どもは子どもなりに、考えたり何かを感じたりしています。大人は子どもの気持ち、声や意見に耳を傾けて、適切に応答したり、何がその子どもにとって最善なのかを対話などを通じて一緒に考えることが求められます。

親や弁護士等の代理人が子どもの意見を聴取するときは、まずは、子どもの物事の見方や考え方を正確に理解しなければなりません。子どもから意見を聴くときは、子どもに分かりやすい説明をして、子どものデリケートな心に寄り添い、意見を言いやすいようにするなど、子どもにやさしい状況をつくることが求められます。そして、聞き取った子どもの意見を周りに伝えるときは、子どもの意思に反しないように、かつ意見を伝えたことによって子どもに不利益が及ばないように配慮することが必要です。

とりわけ、教育という側面では、子どもを型にはめたり、理想の子ども像へ近づけようとしたりするのではなく、子どもの教育を受ける権利を保障するための環境整備が重要です。学びの場でも、子どもを主体とした環境作りが必要です。子どもの教育に密接に携わる学校には、子どもに関わることについて子どもの意思や気持ちを尊重し、子どもの意思に真摯に向き合った運営が望まれます。

例えば不登校については、大人の目線から、ただ「学校に通わせること」を目的にするのではなく、子どもの考えや心情に寄り添いながら、まずは安心・安全な学校環境が保障されるべきことは当然として、時には休息することも権利であることを踏まえつつ、教育を受ける権利を最大限に保障するために、その子にとって最もふさわしい支援のあり方がどのようなものかを考える姿勢が大切です。

本来子どもは多種多様であり、持っている能力、障害の有無やその種別は様々です。近年では国籍や人種、文化や言語や宗教なども多様化しています。教育の場では、子ども一人ひとりのニーズに合わせた、合理的な支援をすることが求められます。

生命・生存・発達への権利という側面では、子どもが暴力や虐待、性的搾取から守られることは最低限必要なことです。2022年(令和4年)に民法から懲戒権に関する条項が削除されたことはその現れの一つです。しつけの名の下においても、暴力は許されません。また、ビジネスの場での子どもの性的搾取が問題になっていますが、子どもを暴力や性的搾取から守るためには、児童相談所の拡充が必要であるほか、子どもを取り巻く大人たちがいち早く問題に気づいて子どもの救済にあたること、企業が子どもの権利を理解してそれを遵守して活動することが必要です。

子どもの権利を保障する義務をもつ大人(特に、議員・裁判官・公務員・教員・保育士など子どもに関わる職業にある者)に対しては、子どもの権利を保障するため、子どもの権利の実現方法について学び、理解するための研修体制を構築することを求めます。同時に、国に対し、児童相談所の拡充、子どもに関わる制度が子どもの権利を保障しているか監督し、権利侵害された場合に救済するため、子どもコミッショナーの設置や自治体による相談救済機関の設置などあらゆる手段を講じることを強く求めます。当会としても、子どもの権利の普及啓発や子どもの人権相談、家事事件における子どもの手続代理人、少年事件における付添人、児童相談所職員やいじめの第三者委員会などの活動を通じて、子どもの権利が保障される社会の実現を目指していきます。

2024年(令和6年)11月28日
静岡県弁護士会
会長 梅田 欣一

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