静岡地方裁判所は,平成25年11月22日,覚せい剤取締法違反被告事件において,警察官が捜索時に被告人に対し暴行を加えたうえ,令状に基づかない実質的な逮捕を行い,弁護人選任権行使を妨害して取調べが行われたとの事実を認定し,警察による違法な捜査を厳しく批判し,このような違法捜査により得られた証拠には,証拠能力がないものとして証拠から排除し,被告人に対して無罪の判決を言い渡した。
裁判所は,上記判決の理由において,
- (1) 警察官が,携行していった小チェーンカッターで被告人を殴打し,頭部等に傷害を負わせたとの事実は疑いの域を越えて,事実として認定することができ,警察官の被告人に対する暴行はいかなる意味でも正当化されず,明らかに違法な暴行であり,違法性の高い許されない行為である。
- (2) また,被告人に対する一連の身体拘束については,捜索時に暴力を加えて傷害を負わせ,その後引き続いて病院へ連れていかずに,警察署に連れてきて取調室に留め置いたという一連の事態の経過を評価すれば,実質的には違法な身体拘束(逮捕)がなされていたものといわざるを得ない。
- (3) さらに,取調時に被告人が特定の弁護人を呼んでほしいと申し出たにもかかわらず,連絡を取らなかった点については,弁護人選任権,弁護人の援助を受ける権利を侵害した疑いがある,
と判示している。
当会は,本判決は適正手続の観点から極めて妥当な判決であると支持する。
また,本判決に対して検察庁が控訴を行わなかったことも,正当な判断であると評価できる。
そもそも警察官による暴行は,本来あってはならないものであり,これは暴行罪,傷害罪とは別に,特別公務員暴行凌虐罪(刑法第195条)として,特に重く処罰することとされていることからも明らかである。加えて,本件においては,公判廷で証言した複数の警察官らが事実と異なる証言を行った疑いすら指摘されているのである。
今回前記判決により明らかとなった警察による一連の行為は,被疑者・被告人の人権を無視した違法行為であるに止まらず、司法の公正を根幹から揺るがしかねないものであり,当会としては強く抗議する。
また,静岡県警察本部及び静岡地方検察庁に対しては,裁判所によって警察の違法な捜査が事実として認定されたことを厳粛に受け止め,関係者に対し,厳正な調査のうえ事実を糾明し,その結果を踏まえ,適切かつ厳正な処分を行うことを求める。
そして,本件のような違法な捜査が今後二度と行われないよう,捜査に関する法令,判例,裁判例について警察官の教育を行うなど,再発防止に努めることを強く求める。
2013(平成25)年12月13日
静岡県弁護士会
会長 中村 光央
静岡県弁護士会
会長 中村 光央