本年3月1日,政府は,「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」(通称「マイナンバー」法案)を国会に提出し,今国会会期内の成立を目指している。
マイナンバー制度は,国民一人ひとりに番号を割り振ることにより,行政手続の簡略化,生活保護の不正受給や脱税の防止等の効果が期待できるとされている。
しかしながら,その利用範囲は,社会保障,税,防災分野等多岐にわたり,情報の内容も,母子,生活保護,障がい,要介護,病歴,失業,収入,資産など極めて広範囲かつセンシティブなものを含んでいる。したがって,国や行政機関は,マイナンバーによって,国民の個人情報の一元的管理が可能となり,その収集,利用方法によっては,国民のプライバシー権は危機に瀕することとなる。
しかも,各行政機関が個人情報を取得できる範囲は,本来,法律によって限定しなければならないはずであるが,本法案では,その多くが政省令等に委任されている。その結果,各行政機関は大幅な裁量権を有し,他方,国会の民主的コントロールは極めて不充分となっている。
また,情報は,その性質上,ひとたび漏洩するとその回復が著しく困難であるところ,本法案では,国民の情報の内容が上記のとおり極めて広範であることから,情報漏洩等が起きた場合の被害は深刻かつ重大である。そして,その危険は,既に導入されている住民基本台帳ネットワークシステムにおいて,住基カードの不正取得等の事例が多発している現状によって実証されているところである。
確かに,本法案では,個人情報の保護の対策として,特定個人番号情報保護委員会の設置,不正利用等についての罰則,国民が自宅のパソコンから自分の情報提供等の記録を確認できる「マイ・ポータル」などが規定されている。
しかしながら,特定個人番号情報保護委員会による実効的な個人情報保護の具体的方策は明らかでないし,罰則も事後的な対策にすぎない。「マイ・ポータル」も情報の不正使用等の事後的な確認手段にすぎず,むしろ,インターネットを通じて個人情報の閲覧が可能となることから,不正アクセス等による新たな情報漏洩等のおそれが高い。
何より,このような重大なプライバシーの問題を含む本法案の存在及びその内容が国民に周知されているとは到底言えず,国民的議論も十分になされていない現状では,本法案が成立した場合,国民の権利保護の観点から大きな禍根を残すことは明白である。
よって,当会は,本法案が,基本的人権の中核であるプライバシー権の侵害の危険性が極めて高いことから,その制定に強く反対する。
静岡県弁護士会
会長 渥美 利之