「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明 

  1.  政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。改正案は二つの点で、看過しがたい重大な問題がある。
  2.  まず、改正案では、保護の開始の申請を、申請書による要式行為とするとともに、資産や収入に関する資料を添えることとしている。
     しかし、現行生活保護法24条1項は、資料の添付を義務づけておらず、また同条が口頭による保護申請も認めているとするのが確立した裁判例(平成13年10月19日大阪高裁判決など)である。現行法の下では、添付書類を提出しない保護申請を「不受理」とする取扱いは、「水際作戦」と呼ばれる違法な申請権侵害である。改正案が現行法下では違法とされる水際作戦を敢えて制度化し、保護申請権の行使を抑制しようとするものであることは明らかである。
     なお、報道によれば、本年5月29日、自民、公明、民主の3党で改正案の修正が大筋合意されたという。しかし、修正案によっても、特別の事情がない限り口頭による申請は認められない。従って「特別の事情がない」との口実で申請権行使が不当に抑制されるおそれは依然として大きいままである。
  3.  次に、改正案は、保護開始に先立ち扶養義務者に対して通知することを義務付け,また、生活保護を申請する要保護者の扶養義務者の資産や収入について、銀行や勤務先に報告を求めることが出来るとしている。
     しかし、要保護者は扶養義務者との人間関係が悪化していることが多く「親族に迷惑は掛けられない」と思う者は多い。また、扶養義務者自身も経済的に余裕がない場合が少なくない。

現行法下ですら、要保護者が、扶養義務者への通知によるあつれき等を恐れて申請を断念する場合は少なくない。改正案はいっそうの萎縮的効果をもたらすことは明らかである。

よって、当会は、改正案の廃案を強く求める。

 

2013(平成25)年5月28日
静岡県弁護士会
会長 中村 光央

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