裁判所予算の大幅増額を求める会長声明 

  1.  2001年に提出された司法制度改革審議会意見書において,同審議会は司法制度改革を実現するために,裁判所等の人的物的体制を充実させ,司法に対し財政面の十分な手当が不可欠であるとし,政府に対して,必要な財政上の措置について特段の配慮を求めた。しかし,その後の裁判所関連予算は,裁判員裁判対策に関する点を除いて減少を続け,国家予算に占める割合はほぼ0.3%台で推移している。平成26年度予算は約122億円の増額となったが,これには給与特例法の失効に基づく人件費の増額分約171億円が含まれているから,実質的には約49億円の減額となっている。
     このような状況に鑑みれば,政府は,意見書が求めた財政上の特段の配慮を怠ってきたといわざるを得ず,国民の裁判を受ける権利(憲法32条)を具現化する責務を果たしてこなかったと評価せざるを得ない。政府が,「安全安心な社会」を目指すのであれば,国民の身近にあって,利用しやすく,頼もしい司法を全国各地で実現すべく裁判所予算の増大を図ることは必要不可欠である。
  2.  近時,家事事件は一貫して増加している。家事調停事件は多様化や複雑化が進み,面会交流事件でも難しい事件が増加しており,成年後見事件は激増の一途をたどっている。
     こうしたことから,裁判官や裁判所書記官の業務は多忙を極めており,本来自ら行うべき申立内容の確認や後見業務の打合せ等を参与員に依頼し任せるような事態にまで至っている。裁判官及び裁判所書記官等の職員の増加や調停室等の増設等の物的設備の充実に加えて,支部若しくは出張所の新設というような裁判所の体制に係わる抜本的対策が求められる。したがって,特に家庭裁判所関連の予算については,飛躍的な拡充が必要不可欠である。
  3.  他方,家庭裁判所以外の裁判所の予算が減少に転じていることも大きな問題である。なるほど,消費者金融事件・破産事件の減少等によって,地方裁判所などの取扱事件数は減少している。しかしながら,もともと多くの裁判官の勤務の過酷さは異常な状態であり,事件数の減少があったとしても,その異常さが解消されるほどにまでは至っていないのが実情である。
     また,裁判官から裁判所書記官やその他の職員への権限の大幅委譲が進んでいるため,裁判所書記官ら職員の繁忙さは年ごとに深刻となってきている。地方裁判所等に関しても人的・物的に強化する必要があることに変わりはなく,その予算についてはやはり大幅な増加が必要となる。現在,各地において支部での労働審判の実施実現を求める声が高まっているが,このように国民からの強い要望にしたがって裁判所の基盤の整備を図るべき問題点も少なくない。こうした点からも裁判所予算の増加は必要不可欠というべきである。
  4.  これに対し,国家財政が悪化している現状においては,裁判所予算を大幅に増加することは相当でないとの意見がある。しかし,もともと裁判所予算の国家予算に占める割合が極端に低く少額であったため,司法の使い勝手が悪かったことから,その改善を図るべく,小さな司法から大きな司法を目指して司法制度改革審議会意見書の提言がなされたのである。したがって,国家財政の増減状況にかかわらず裁判所予算の増加を図らなければならないことは,自明の理である。最高裁判所は,限られた予算の範囲で司法をやりくりするのではなく,今よりはるかに多額の裁判所予算が国民のために必要であることを社会に向かって大きく訴えるべきである。
  5.  静岡県に限ってみても,これまでかならずしも県内の地域特性に見合った裁判所の人的物的施設の拡充は図られてこなかった。例えば,静岡家裁島田出張所や静岡地家裁掛川支部では,著しく受理事件数が増加しているにもかかわらず裁判官が常駐していないこと,富士支部では常駐裁判官が事件数に比して少ないと言われてきたこと,沼津支部及び浜松支部においては労働審判の実施を要望する声が従来からあったにもかかわらず,いまだに実現していないこと等の問題が指摘されている。このように県内各地域の司法サービスは決して十分とはいえないのであり,これを克服していくためにも,裁判所予算の大幅な増額が必要不可欠である。
  6.  以上の次第で,最高裁判所は,まず平成27年度予算から大幅な裁判所予算の増額を要求すべきであり,財務省あるいは政府においては,それを受けて大幅な司法予算の増加を認めるべきである。

 

2014(平成26)年9月29日
静岡県弁護士会
       会長 小長谷 保

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