静岡大学法科大学院入学者募集停止に関する会長声明 

  1.  国立大学法人静岡大学(以下,静岡大学という)は,本年10月14日,同大学大学院法務研究科(以下,静岡大学法科大学院という)について,平成28年度から入学者の募集を停止する旨決定したと発表した。
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  3.  静岡大学法科大学院は,地域司法の充実を願って行われた県民10万人署名と様々な分野の14団体の法科大学院設立推進決議,県内65自治体の設立推進決議などを受けて,県内国会議員その他の有識者を含めた様々な県民の支えの中で2005(平成17)年4月に開設されたものである。
     当会も,開設前の2003(平成14)年3月20日に,静岡大学人文学部(現・人文社会科学部)及び同大学院人文社会科学研究科と法科大学院設置に向けた連携・協力協定を締結した。これを受けて,多数の当会会員を実務家教員として派遣するとともに,当会に静岡大学法科大学院等バックアップ委員会を設置し,法律事務所エクスターンシップの実施,有志団体による論文作成会の実施と合格体験記の発刊,チューター制度への若手弁護士の派遣,里親制度の創設などを行い,さらに静岡大学法科大学院支援協会の発足に尽力し,同協会を通じた静岡大学に対する寄付募集活動を行って,これまで当会会員が累計で数千万円に及ぶ寄付を行うなど,静岡大学法科大学院の法曹養成に対して物心両面にわたる支援を行ってきた。
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  5.  こうしたこともあり,静岡大学法科大学院は,これまで30名の司法試験合格者を輩出し,そのうち14名が当会に所属して静岡県の司法実務を担い,また当会の会務活動を支えている。さらに,法テラスにおいて司法過疎地の法的サービスに貢献する者,地方自治体や企業に入り活躍する者など,当会に所属しない合格者も様々な分野で法的サービスの充実・発展に貢献している。
     静岡大学法科大学院の院生は,そのほとんどが法学未修者コースであり,社会人出身者や他学部出身者等法学の未修者も多く在籍し,多様な分野から法曹を輩出することにも一定の貢献をしてきた。
     このように,静岡大学法科大学院が,地域司法の充実・発展,多様な人材の輩出などの司法改革の理念に対し,一定の成果を上げてきたことは間違いない事実である。
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  7.  それだけに,今回の募集停止の決定は,当会としても大変残念に思う次第である。また,それとともに,静岡大学法科大学院が広域連携・連合の協議を重ねているまさにこの時期に,再来年度の募集停止を静岡大学として決定し,これを発表したことにも疑問の余地なしとしない。現在進行中の広域連携・連合協議の行方を見定めた上で,これと同時に発表しても決して遅くはなかったのであって,これまで県内各層から様々な支援を受けて来たことを考えるなら,そのようにしてこそ県内における司法サービスの充実・発展と法曹養成に関して静岡大学がその責任を果たしたと言えるのである。
     さらに,相次ぐ地方法科大学院の募集停止は,2013(平成25)年11月の文部科学省の「法科大学院の組織見直しを促進するための公的支援の見直しの更なる強化について」といった指針に基づく法科大学院のランク付とこれによる交付金の削減,このことも影響した地方法科大学院への入学者離れなどに端を発しているが,同指針は法科大学院の地域適正配置をほとんど考慮していないものであるとともに,基準の1つとして挙げられる平均合格率は法学既習・未修者コースを区別しないなど,地域司法の充実・発展,多様な人材の輩出などの司法改革の理念に沿ったものとなっていないことは極めて問題である(例えば,本年度の法学既習者の平均合格率が32.8%なのに対して未修者のそれは12.1%と大きく異なるのであって,未修者コースの院生を多く抱える静岡大学法科大学院などの地方法科大学院にとっては,両者を区別しない平均合格率の基準は極めて不利な基準である)。
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  9.  現在,静岡大学法科大学院は平成27年度入学者の入学試験を行っているところであってこれから入学してくる者もおり,また,在学生や引き続き司法試験受験を目指す修了生も多数存在する。当会としては,静岡大学法科大学院に対し,本件決定によりこれらの者に生じる動揺を鎮める努力を早急にするとともに,今後もこれらの者に対し,最後の一人まで責任を持って教育その他の施策・援助を行っていくことを強く求めるものである。
     また,当会としても,今後とも静岡大学法科大学院等バックアップ委員会を中心として,最後の最後までこれまでの支援を継続していく所存である。
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  11.  静岡大学法科大学院の院生及び修了生の中には,静岡県に法科大学院があったからこそ法曹への道を志すことができた者や合格できた者も少なくない。
     当会は,静岡大学が単独での募集停止に至った以降も,地域において法曹を志す者がその道を断念することがないよう,現在協議を重ねている広域連携・連合構想を是非とも実現すべく静岡大学として最大限の努力を払うことを同大学に強く要請し,静岡県内に法曹養成の芽が残ることを強く期待するものである。

 

2014(平成26)年10月17日
静岡県弁護士会
       会長 小長谷 保

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