経済産業省及び農林水産省は,本年1月23日,商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令(以下「本省令」という。)を定めた。
当会は,2014年4月21日付け「現行の商品先物取引法下における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明」において,本省令の元となる省令案に反対する立場を表明し,日本弁護士連合会及び全国52の弁護士会が全て反対の立場を表明している。
本省令は当初の省令案を若干修正し,同規則第102条の2を改正して,ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に,顧客が65歳未満で一定の年収若しくは資産を有する者である場合に,顧客の理解度を確認するなどの要件を満たした場合を例外とする規定を,不招請勧誘の禁止の例外として盛り込んだものである。
しかし,上記の要件を満たすかどうかの顧客の適合性の確認は勧誘行為の一環においてなされるものであるから,本省令は,商品先物取引契約の締結を目的とする勧誘を不招請で行うことを許容するものというほかなく,実質的に不招請勧誘を解禁するものである。
そもそも,個人顧客に対する商品先物取引の不招請勧誘は,深刻な先物取引被害を防ぐべく,2009年7月の商品先物取引法改正によって原則として禁止され,現行法の下では,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為」のみが,例外的に許容されることになったものであるが,本省令は,法律の委任の範囲を超える違法なものであり,省令によって,法律の規定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。本省令は,透明かつ公正な市場を育成し委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないものである。また,まさに被害に遭った消費者の声を受けて改正された法律を,省令によって実質的に骨抜きにすることは,わが国が目指す「消費者市民社会」の理念にも逆行するものと言うべきである。
さらに,内容的にみても,委託者に年収や資産の確認の方法として申告書面を差し入れさせたり,書面による問題に回答させて理解度確認を行う等の手法は,いずれも,現在も多くの商品先物取引業者が事実上同様の手法を採っており,その中で業者が委託者を誘導して事実と異なる申告をさせたり,正答を教授するなどの行為が蔓延し,被害が生じていることからすると,これらの手法が委託者保護のために機能するものとは評価できない。
改正商品先物取引法が施行された2011年1月以降も,商品先物取引業者の従業員が,個人顧客に対し,金の現物取引やスマートCX取引(損失限定取引)を勧誘して接点を持つや,すぐさま通常の先物取引を勧誘し,多額の損失を与える被害が少なからず発生しているという実態がある。
本省令は上記のような立法経緯及び被害実態を軽視し,商品先物取引の不招請勧誘を事実上解禁するものであり,消費者保護の観点から許容できず,当会はこれに強く抗議する。
静岡県弁護士会
会長 小長谷 保