政府は,本年4月3日,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という)を閣議決定し,国会に提出した。
本法案は,企画型裁量労働制の対象を,従来から認められていた「事業運営に関する事項について,企画,立案,調査及び分析を行う業務」から拡大するものとなっている。
しかし,使用者との力関係から仕事の量や期限を決定することができない労働者は,使用者からの圧力に抗しきれず長時間労働に陥りやすいところ,裁量労働制の対象となる労働者の範囲を拡大することは,こうした弱い立場にある労働者に,広く裁量労働制を適用し,みなし時間の名目で十分な時間外手当もなく長時間労働を余儀なくされる労働者の範囲を拡大させるおそれが高いものである。
そのため,対象の安易な拡大はなされるべきではない。
また,本法案は,特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を創設し,厚生労働省令で定める一定の賃金額以上の労働者が,「高度の専門的知識等を必要とし,その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くない」業務に就いた場合には,労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないとしている。
しかし,このように対象となる労働者の賃金額や業務の範囲の要件についての詳細な定めを省令に委ねる規定では,十分な議論がなされないまま要件が緩和され,容易に対象労働者が拡大されてしまうことが強く懸念される。
さらに,「成果型」労働制と言われているものの,業務の成果を賃金額に反映するような特段の定めが本法案に設けられているわけではなく,結果として,賃金額が低廉なまま,恣意的に「成果型」とされる業務が広く認められてしまうおそれが高い。
一方,本法案は当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を講ずることを使用者に求めてはいるが,これらの措置が取られていない場合に適用される罰則も無いなど実効に多くの疑問がある。
使用者が健康及び福祉を確保しなかった場合に対応する適切な罰則も無いまま,無制限に拡大するおそれのある労働時間規制の適用除外を定めることは,我が国の労働者の労働環境において,更なる長時間労働を助長し,ひいては過労死あるいは過労自殺をもたらしかねないものであり,相当ではない。
以上から,当会は,本法案に反対する。
静岡県弁護士会
会長 大石 康智