政府は,自衛隊法・武力攻撃事態法・PKO協力法など改正10法案を一括した「平和安全法制整備法案」と,国際紛争に対処する他国軍の後方支援を随時可能とする「国際平和支援法案」を今国会に提出し,現在国会での審議が行われています。
しかし,この安全保障関連2法案(以下「本法案」といいます。)は憲法9条に違反するもので,速やかに廃案とされなければなりません。
第一に,本法案は,歴代の政府が憲法9条の下で否定してきた集団的自衛権の行使を認めており,憲法9条に違反します。
日本国憲法第9条は,戦争と武力の行使,武力による威嚇を放棄し,戦力の不保持までも定め,比類ない徹底した平和主義の姿勢を打ち出しています。このような憲法9条の下で,自国に対する武力攻撃の危険がないにもかかわらず他国間の戦争に参加することになる集団的自衛権が認められないことは明らかです。
しかも,本法案において武力行使する場面となる「存立危機事態」なる概念は極めて抽象的で,どのようなケースが「存立危機事態」となるか,時の政府の都合でどのようにでも判断できるものです。
第二に,本法案は,自衛隊の海外派遣の範囲を著しく拡大しており,自衛隊による憲法9条違反の活動に道を開くものです。
まず,本法案では,自衛隊の海外派遣の地理的制約が撤廃されています。これまで自衛隊が米軍等の支援を行うことができるのは,「日本周辺の地域」に限られるとされており,それ以外の地域に自衛隊を派遣する場合には,特別措置法を個別に制定する必要がありました。ところが本法案では,自衛隊の海外派遣の地理的制約を撤廃し,個別の法律を制定することなく,世界のどこにでも自衛隊を派遣することが可能とされています。
次に,本法案では,戦闘が行われる可能性のある地域にも自衛隊を派遣することを可能にしています。これまでは自衛隊の海外派遣は「非戦闘地域」に限定されていましたので,今後は自衛隊が戦闘に巻き込まれる危険性が確実に増大します。
さらに本法案では,自衛隊の行う外国軍の後方支援活動として,新たに弾薬の提供や戦闘機に対する給油活動を行うことを可能としています。しかしこれらの兵站活動は戦闘活動の一部であり,攻撃の対象となることは軍事的な常識であり,自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険性を格段に高めるものです。
イラク特措法の下でイラクに派遣された航空自衛隊が米軍兵士を輸送した活動について,「武力行使と一体化するもの」であるとして,名古屋高等裁判所が違憲判決を下しています。本法案により自衛隊の活動を大幅に拡大されることになれば,自衛隊が憲法9条違反の「武力行使と一体化する」活動を行う可能性は明らかに高まります。
しかも本法案は,日本の安全に直接影響を及ぼすことのない場合であっても,「国際社会の平和安全の確保に資する」との名目で,このような危険な自衛隊の活動が行われることをも可能としています。
本法案では,以上の2点以外にも,「国連が統括しない国際平和協力活動」に自衛隊を参加させることができるようになったり,紛争地での「治安維持活動」に従事を可能としたりする等,自衛隊を危険な任務に従事させることを可能としています。また武力衝突が発生していない平時であっても,同盟軍の武器等を防護するために自衛隊が武器を使用することを可能にもしています。このような自衛隊の活動は,偶発的な武力紛争を誘発するものであって,武力行使を禁ずる憲法9条に違反します。
「平和安全法制整備法案」「国際平和支援法案」の「平和」「安全」は名ばかりで,本法案の実体は,憲法9条に違反するまさに戦争法案といわざるを得ません。また国民の意思を直接問う手続をすることもなく,法律によって憲法を改変するもので,立憲主義に反することも明白です。
当会はこうした憲法違反の本法案の成立に断固反対し,本法案が速やかに廃案とされることを求めます。
静岡県弁護士会
会長 大石 康智