- 私たちは,静岡県弁護士会の歴代会長有志24名です。
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に6条の2を加える改正案,いわゆる共謀罪法案(テロ等準備罪法案)は,本年5月23日に衆議院本会議で可決され,現在参議院で審議が行われています。しかし,共謀罪を制定する法案は,極めて問題がある法案だとして,静岡県弁護士会においては,2004(平成16)年から2006(平成18)年にかけて,4度にわたりこれに反対する会長声明が出され,その後その都度廃案になったものです。そして,今回の法案についても,本質的危険性は何も変わりがないとして,本年4月28日付で,これに反対する会長声明が出されています。 - 私たちも,以下の理由により,共謀罪(テロ等準備罪)の制定に反対します。
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(1) 共謀罪は,それ自体は法益侵害がない「共謀」という曖昧な内心の表現自体を処罰するもので,刑法の行為主義に反し,処罰される対象が明確でなければならないという罪刑法定主義にも反しています。法案が処罰条件としている準備行為自体も,ATMでお金をおろす,双眼鏡を持って花見に行く,などそれ自体法益侵害がない行為で足りるとしており,歯止めにはなりません。
この点に関しては,「概括的・黙示的・順次的な『合意』が排除されておらず」,「『準備行為』の範囲も無限定」だとして,共謀罪法案に反対する刑事法研究者の署名に,本年5月23日現在163名もの研究者が名前を連ねています。 - (2) 政府は,適用対象を「組織的犯罪集団」に限定していると言っていますが,一方で団体の活動内容が一変した場合には会社・市民団体・労働団体その他の団体にも適用されうると言っており,一変したかどうかはもっぱら捜査機関が判断するため,恣意的判断を防げず,あらゆる団体に適用が可能で歯止めにはなりません。
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(3) 政府は,テロ対策のため,及び国連越境組織犯罪防止条約(パレルモ条約)批准のために共謀罪法案の成立が必要だと言っていますが,日本はテロ対策のための国連の13の条約を批准してその国内法を既に十分に整備しているだけでなく,パレルモ条約の国連の立法ガイドを執筆した刑事司法学者のニコス・パッサス氏は,「条約はテロ防止を目的としたものではない」と明言し,「新たな法案などの導入を正当化するために条約を利用してはならない」と述べています。
また,条約の締結・効力発生・適用・解釈などの条約に関する国際法上の一般規則を定めた条約法条約(ウィーン条約)は,当該条約の趣旨・目的に反しない限りで,批准に際し当該条約の一部を留保して批准することを認めており,その趣旨・目的は当該条約の文言・交渉過程・付属文書など多くのものを検討して解釈されるべきものとされ,批准後国連が当該国の解釈による留保が正しいか否かについて審査を行うわけではなく,実際にもアメリカは共謀罪等の制定に関するパレルモ条約5条を留保して批准しているのであって,同条約批准のために共謀罪を制定することが不可欠だということはありません。
したがって,テロ対策のため,及びパレルモ条約批准のために共謀罪法案の成立が必要だとの政府の説明は明らかに間違いです。 -
(4) 「共謀」が行われたかどうかを明らかにするためには,共謀より以前の個人の会話,電話,メール等を捜査しておく必要が高く,捜査機関により広く市民のプライバシーが監視対象とされてこれが侵害され,密告・監視社会となり,今後の通信傍受の範囲の拡大の恐れと相まって,社会における自由な活動を著しく萎縮させる効果を及ぼします。
国連プライバシー権に関する特別報告者であるジョセフ・ケナタッチ氏も,本年5月18日に,共謀罪(テロ等準備罪)に関する法案はプライバシー権と表現の自由を制約するおそれがあるとして深刻な懸念を表明する書簡を安倍首相宛てに送付し,国連のウェブページでも公表しています。
また,国際ペンクラブも,今月5日,「同法が成立すれば,日本における表現の自由とプライバシーの権利を脅かすものとなるであろう」として,同法案に反対するジェニファー・クレメント会長の異例の会長声明を発しています。
さらに,NGO23団体が「市民社会を抑圧し,民主主義を窒息させる」として同法案に反対した声明に,今月8日時点で,アジアや欧州など14カ国142団体が名前を連ねています。
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(1) 共謀罪は,それ自体は法益侵害がない「共謀」という曖昧な内心の表現自体を処罰するもので,刑法の行為主義に反し,処罰される対象が明確でなければならないという罪刑法定主義にも反しています。法案が処罰条件としている準備行為自体も,ATMでお金をおろす,双眼鏡を持って花見に行く,などそれ自体法益侵害がない行為で足りるとしており,歯止めにはなりません。
- このように,テロ対策のため,パレルモ条約批准のために共謀罪法案の成立が必要だとの政府の説明には全く根拠がなく,法案は,行為主義・罪刑法定主義に反し人権侵害の危険が高いのに,あらゆる団体に適用が可能で歯止めがなく,市民のプライバシーを侵害して密告・監視社会をもたらすという極めて危険性のあるものです。私たちは,法律家としてこの法案に強く反対するものです。
2017(平成29)年6月14日
土屋連秀 勝山國太郎 小林達美
原 陽三郎 井口賢明 村松 良
内田文喬 小野森男 福地明人
塩沢忠和 河村正史 小川良明
興津哲雄 杉本喜三郎 青島伸雄
鈴木敏弘 伊東哲夫 齋藤安彦
中村光央 小長谷 保 大石康智
洞江 秀 近藤浩志 ほか1名
土屋連秀 勝山國太郎 小林達美
原 陽三郎 井口賢明 村松 良
内田文喬 小野森男 福地明人
塩沢忠和 河村正史 小川良明
興津哲雄 杉本喜三郎 青島伸雄
鈴木敏弘 伊東哲夫 齋藤安彦
中村光央 小長谷 保 大石康智
洞江 秀 近藤浩志 ほか1名