全国の消費生活センターに寄せられる消費者被害やトラブルに関わる苦情相談件数は,近年90万件前後と高水準で推移している。特にその中でも,高齢化の進行に伴い,高齢者の消費者被害・トラブルが増加の一途を辿っており,判断力が低下した高齢者の弱い立場につけ込む悪質商法・詐欺商法が深刻さを増している。
また,民法の成年年齢の引き下げの議論が進む中,判断力の未熟な若年層の消費者被害を防ぐため消費者教育の充実を図る必要がある。平成24年に制定された消費者教育推進法は,国のみならず地方公共団体にも消費者教育を実施する責務があることを定め,具体的には各地方公共団体の消費生活センターが消費者教育の要となることが期待されている。
このように,社会情勢の変化に伴い消費者被害が深刻化・低年齢化していくことが予想される中,被害の発生を未然に防止し,また被害を事後的に救済するために,地方消費者行政の一層の充実が求められている。
消費者庁は,平成29年7月25日,「地方消費者行政の充実・強化に向けた今後の支援のあり方等に関する検討会報告書」を公表した。この報告書は,地方消費者行政の充実・強化に向けた今後の支援のあり方について,財源の確保,国の支援等にかかる基本的方向性を示すものといえる。
従来,地方消費者行政の財源は,地方消費者行政推進交付金等の国の支援により支えられてきた。地方消費者行政推進交付金については,対象が限定されており,継続性が確保されていないなどの問題点も指摘されていたが,平成29年度の予算額においては30億円とされていた。
ところが,消費者庁が平成29年12月に公表した平成30年度予算案によれば,従前の地方消費者行政推進交付金を統合する形で地方消費者行政強化交付金の項目が新設されたものの,その金額は24億円と大幅に縮減されている。
多くの地方公共団体の政策判断が必ずしも消費者行政重視に転換していない状況において国の支援が縮小することは,地方消費者行政の財政的基盤の脆弱化につながり,地方消費者行政の後退をもたらし,行政サービスの受け手である国民にとって大きな不利益をもたらすことは明らかである。
したがって,消費者庁としては,地方消費者行政強化交付金の金額を従前の地方消費者行政推進交付金と少なくとも同程度に維持する努力をすべきであり,併せて使途の対象を拡大し,10年程度は継続する制度と明確に位置付けるべきである。
そして,消費生活相談情報のPIO-NET登録,重大事故情報の通知,法令違反業者への行政処分,適格消費者団体の差止関係業務など,国の業務と関連があり,全国的な水準を向上させる必要性が大きい業務が地方公共団体により担われていることに鑑みれば,将来的には地方財政法第10条を改正して,これらを担当する地方公共団体の職員・相談員の人件費等の相当割合を,国が恒久的に負担する制度を設けるべきである。
このように,財政基盤の強化を図り,地方消費者行政における法執行,啓発・教育・地域連携等の企画立案,他部署・他機関との連絡調整,商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上に向け,国によるさらなる実効性ある支援を強めることが望まれる。
当会は,国による恒久的な財政支援とさまざまな施策への実効ある支援並びにこれらを通じた地方消費者行政の一層の強化を求めるものである。
静岡県弁護士会
会長 近藤 浩志