クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明 

近時,経済産業省産業構造審議会割賦販売小委員会では,与信審査に係る割賦販売法(以下「割販法」という。)上の規制に対する緩和策が検討されている。具体的には,①クレジット会社独自の「技術・データを活用した与信審査方法」を使用する場合につき,商品若しくは権利を購入し,又は有償で役務の提供を受けることができるカードその他の物又は番号,記号その他の符号(以下「カード等」という。)を付与する際の支払可能見込額調査義務(割販法30条の2第1項)を免除すること,②上記「技術・データを活用した与信審査方法」を使用する場合,支払可能見込額調査の際の指定信用情報機関の個人信用情報照会義務(割販法30条の2第3項)を免除すること,③利用極度額10万円以下のカード等の交付又は付与時について,支払可能見込額調査の際の指定信用情報機関の個人信用情報照会義務(割販法30条の2第3項)及び基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56第2項,第3項)を免除することが検討されている。

しかし,各与信業者が独自の情報に基づく独自の審査基準により与信判断を行うことになれば,業界全体として統一的な基準により過剰与信を防止するという現行制度の趣旨を没却することになりかねない。

そもそも,割販法の過剰与信規制は,与信先である個人について,他社における取引内容も含めたクレジット債務全体を把握したうえで,統一的な与信審査基準を用いることによって,深刻な社会問題である多重債務問題を業界全体で防止しようとするものである。そのため,与信審査に際して指定信用情報機関の照会及び与信情報の登録を行うことは,単なる与信業者の貸倒れリスクを回避するための単なる自衛策ではなく,多重債務防止の社会的要請に基づくセーフティネットとしての義務でもある。

確かに,AIやビッグデータといった「技術・データを活用した与信審査方法」には一見すると合理性があるようにも思われる。しかしながら,多様な与信審査基準を選択肢として認めるとすれば,その与信審査基準が支払可能見込額調査に代替しうるだけの客観的に合理的な審査方法であるか否かを行政庁等の第三者が事前に検証するなどの措置が必要となるところ,行政庁等がAIやビッグデータといった「技術・データを活用した与信審査方法」の合理性判断を事前かつ客観的に行うことは必ずしも現実的ではない。

また,利用限度額10万円以下の与信について指定信用情報機関の照会義務及び与信情報の登録義務を免除するという提案についても,上記法の趣旨に鑑み許されるべきではない。なぜなら,多重債務の防止を実効性あるものとするには,与信を受ける者の包括的な債務状態を把握することが重要であるところ,これは指定信用情報機関に与信情報を全件登録し照会することによって可能となるからである。たとえ利用限度額10万円以下の場合とはいえ,一部の与信について信用情報の照会義務・登録義務を免除することは,多重債務防止対策を業界全体のセーフティネットとして構築した制度趣旨そのものを崩壊させかねない。現行法においても,利用限度額30万円以下の場合には,原則として,支払可能見込額調査義務が免除されるという少額与信への特例措置が規定されているのであり(割販法30条の2第1項ただし書・割販法施行規則第43条1号),更なる緩和措置は不要と思料される。

よって,当会は,経済産業省産業構造審議会割賦販売小委員会において示されたカード等の交付・付与時における過剰与信規制の緩和策に強く反対する。

 

2019年(令和元年)8月28日
静岡県弁護士会
会長 鈴木 重治

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