静岡県内の全市町に犯罪被害者等支援条例の制定を呼びかける会長声明 

静岡県弁護士会(以下,「当会」といいます。)は,静岡県内の全ての市町に犯罪被害者等(犯罪の被害を被った方とご家族・ご遺族をいいます。)を支援するための条例が制定されることを希望します。

 

犯罪の被害は,誰しもが遭う可能性があります。

私たちは,社会の中で多くの人と共に生きていくのですから,どんなに真面目に生活をしていても,他者から犯罪被害を受けることがあります。

犯罪被害に遭うことで,身体的にも精神的にも大きなダメージを受けることは少なくありません。そんなとき,犯罪被害者等が孤立することのないよう,犯罪被害者等に手を差し伸べる社会であって欲しいと願っています。

 

2004年(平成16年)に犯罪被害者等基本法が成立しました。それ以降,刑事裁判における被害者参加制度や国選被害者参加弁護士制度が創設される等,日本の犯罪被害者等に対する支援は大きな前進を果たしましたが,まだまだ十分ではありません。

 

犯罪被害者等に対しては,日常生活の支援,医療費や生活費等の経済的支援,関係機関への付添支援,心身の回復のための支援等,犯罪被害者等が安心して生活できるためのきめ細かい様々な支援が必要です。また,犯罪被害者等に対する二次被害や再被害を防止することも重要です。

 

犯罪被害者等基本法では,地方公共団体は,犯罪被害者等の支援等に関し,その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し,及び実施する責務を有すると規定され,地方公共団体も犯罪被害者等に対する支援の責務を負うとされています。犯罪被害者等の日常生活に密着したきめ細やかな支援については,犯罪被害者等にとって最も身近な市区町村が実施することが適切です。

そして,市区町村での犯罪被害者等に対する支援を充実させるためには,その具体的な支援についての法的根拠となる条例を設け,犯罪被害者等が常に一定の支援を受けられるようにしなければなりません。

 

既に,犯罪被害者等を支援するための条例を制定している市区町村もあります。そのような市区町村において,犯罪被害者等は,日常生活の相談をしたり,連携した支援を受けたり,給付金を受けたりすることができます。このような支援が,住んでいる地域によって,受けられたり,受けられなかったりすることは,望ましいことではありません。そのようなことがないように,全ての市区町村で犯罪被害者等を支援するための条例が制定されなければなりません。

 

日本弁護士連合会は,2017年(平成29年),「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」を採択し,全ての地方公共団体において犯罪被害者等支援条例が制定されることを求めました。

現在,犯罪被害者等支援条例を制定している市区町村は全国的に見てもまだまだ少数で,静岡県内の市町で犯罪被害者等支援条例を制定しているのは,全35の市町のうち,藤枝市,長泉町,裾野市,菊川市,湖西市の5市町だけです。

 

当会は,昨年度,静岡県内の各市町に対し,犯罪被害者等支援条例に関するアンケートを実施しました。回答の多くは,条例制定の必要性は感じているとのことでした。しかし,条例の内容をどのようなものにしたらよいか分からないとの声もあり,こうしたことが静岡県内において条例の制定が進まない要因になっていると感じています。

 

当会は,こうした実情を踏まえ,モデル条例案の周知に努める等して,犯罪被害者等支援条例の必要性や重要性を訴えるとともに,関係機関とも連携しながら,条例制定に向けた活動に積極的に取り組む意向です。

 

当会は,こうした活動を通じ,静岡県内の全市町で犯罪被害者等支援条例の制定が進むことを切に願います。

 

2020年(令和2年)3月25日
静岡県弁護士会
会長 鈴木 重治