民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「本法律」という。)が,本年4月1日に施行された。
わが国の民法は,1896年の制定以来,120年以上もの長きにわたり成年年齢を20歳と定めてきたのであり,今般の成年年齢の引下げは,国民の生活に重大な影響を与える歴史的な法改正である。しかし,それにもかかわらず,懸念される多くの課題が残されたまま施行日を迎えてしまった。
特に,本法律の成立にあたっては,参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされ,①つけ込み型不当勧誘における消費者の取消権の創設(成立後2年以内),②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備(成立後2年以内),③マルチ商法への対策の検討・必要な措置,④消費者教育の充実,⑤成年年齢引下げについての周知徹底などが求められていた。
当会は,2021年5月20日付で,「「民法の一部を改正する法律」の参議院法務委員会附帯決議事項の速やかな実現を求める会長声明」を発出し,本法律施行までに,上記附帯決議に示された施策全てについて,緊急に実現することを求めるとともに,仮にこのような施策が実現できないということであれば,本法律の施行自体を延期すべきであると強い意見を述べていたところである。
しかしながら,①については,本法律成立後2年以内という明確な期限が付されていたにもかかわらず,いまだ創設に至っておらず,ごく一部の被害類型の取消権創設に向けて,消費者契約法の改正の中で,国会で議論がなされているに止まる。また,②についても,18歳,19歳の者が喪失する未成年者取消権に代わる被害防止・救済のための包括的かつ実効的な法整備は何ら行われていない。
さらに,③についても,独立行政法人国民生活センターの最新の統計によれば,改正法の施行前においては,未成年者取消権が適用される18,19歳からの被害相談件数が少ない反面,成年後の20~24歳になると被害件数が5倍以上になると報告されている。そうであれば,このまま何も対策をとらなければ被害の低年齢層化が進むことは明らかといえるが,若年者の被害防止に対する措置は,この1年間に限っても何らとられていない。そして,④についても,全国的に十分な消費者教育が行われているとは言えず,消費者庁が作成した生徒用教材「社会への扉」でさえ,全ての高等学校等で活用されるには至っていない。
何よりも,⑤成年年齢引下げ自体の周知は一定程度進んだものの,18歳,19歳の者が未成年者取消権を失うことにより被害を防げなくなるおそれがあること,そしてそのために悪質な業者のターゲットに一層なりやすくなることといった弊害については,十分な周知徹底がなされているとは言い難い。
成年として新たな一歩を踏み出したばかりの若年者が真っ先に消費者被害に遭うような社会を,我々は決して容認してはならない。
当会は,改めて政府及び国会に対し,成年年齢引下げに伴う若年者の消費者被害防止のための実効性ある施策を緊急に実現することを求めるとともに,今後若年者に生じるおそれのある消費者被害の内容や傾向を速やかに調査・検証し,これらを踏まえた更なる施策を実現することを求める。
静岡県弁護士会
会長 伊豆田 悦義