静岡地方裁判所の旧優生保護法国家賠償請求訴訟の判決を受けて,全ての被害者の全面的救済を求める会長声明 

  1.  2023年(令和5年)2月24日,静岡地方裁判所(増田吉則裁判長)は,旧優生保護法に基づき強制不妊手術を受けさせられた原告が国に対して提起した国家賠償請求訴訟について,旧優生保護法の違憲性を認め,さらに除斥期間の適用を制限し,原告の訴えを認める判決を言い渡した。
     全国において,国に対して旧優生保護法の被害者への賠償を命じた判決は4件目であり,また,地方裁判所の判決としては2件目であって,当会は,この判決を高く評価する。
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  3.  本判決は,旧優生保護法が憲法第13条及び第14条に反して違憲であることは明らかだと認め,また,原告に対する優生手術は,当時の厚生大臣が,憲法違反であることの明らかな優生手術を実施しないようにすべき自らの注意義務に違反して優生手術を推進する政策を実施した結果として行われたものであり,国には国家賠償法上の違法性が認められるとした。
     さらに,除斥期間の適用の是否について,本判決は,国が全国的かつ組織的な施策によって,被害者において憲法違反が明白な旧優生保護法に基づく優生手術が強いられた事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために被害者がその事実を知ることができなかった旨を厳しく指摘し,除斥期間の効果を制限するのが相当だと判断した。
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  5.  全国の旧優生保護法訴訟において被害者救済の最大の障壁である除斥期間の適用について,それを制限する判決は,2022年(令和4年)2月22日の大阪高等裁判所,同年3月11日の東京高等裁判所,同年9月22日の大阪地方裁判所,2023年(令和5年)1月23日の熊本地方裁判所に引き続いて,本判決が5件目である。
     このように,司法は,正義公平の観点から,旧優生保護法の被害者を救済するという姿勢を完全に固めたというべきである。
     よって,当会は,国に対して,本判決の内容を真摯に受け止めるとともに,控訴することなく確定させ,一刻も早く原告の救済を実現するよう求める。また,他地域で争われている裁判においても,原告の請求を認容した判決に対する上訴を取り下げ,旧優生保護法の被害者の一律救済を実現するよう強く要請する。
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  7.  旧優生保護法が,1996年(平成8年)の法改正に至るまで48年もの長きにわたって優生思想を国策として広め,優生手術等を積極的に推進し多数の被害を生んできた事実は,社会に優生思想を根付かせる根源となり,今なお厳然として存在する障害者差別につながっている。
     さらに,2019年(平成31年)4月24日に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)には,旧優生保護法の違憲性が明記されず,行政が把握する被害者への個別通知制度も導入されなかったこと,支給の対象に人工妊娠中絶を受けた者が含まれていないことなど,被害救済には不十分な内容にとどまっている。
     旧優生保護法問題はいまだ終わっておらず,被害は今も続いており,かつ回復されていない。そして,被害者の高齢化は進み,解決には一刻の猶予もない。
     当会は,旧優生保護法下において優生手術や人工妊娠中絶を受けた全ての被害者の救済を実現するため,国に対し,一時金支給法の抜本的な見直しと,優生思想に基づく差別を解消するために必要な施策の実施を求める。
     当会においても,旧優生保護法問題の全面的な解決の実現を目指し,差別のない,誰もが人間としての尊厳が守られる社会が実現できるよう,これからも全力を尽くす所存である。

 

2023年(令和5年)2月28日
静岡県弁護士会
会長 伊豆田 悦義

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