第1 意見の趣旨
1 石川県と国は、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害における応急仮設住宅の供与に関し、災害時の居住形態を理由に、一律に供与期間の差を設ける取扱いを是正すべきである。
2 石川県と国は、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害における応急仮設住宅に入居する被災者に対し、被災者が希望する恒久的な住まいが確保できるまで応急仮設住宅供与期間を延長するとともに、可能な限り速やかに延長に関する情報を公表すべきである。
第2 意見の理由
1 石川県による応急仮設住宅の供与期間の設定
2024年(令和6年)1月に発生した能登半島地震及び同年9月に発生した奥能登豪雨に関し、石川県は、いずれの災害に関しても、応急仮設住宅(建設型・賃貸型)の供与期間として、災害時に持ち家に居住していた被災者については入居日から2年以内、災害時に賃貸住宅や公営住宅に居住していた被災者については入居日から1年以内と、災害時の居住形態により一律に被災者が入居できる期間に差を設けている。
通常、応急仮設住宅の供与に関しては、被災地の都道府県は国(内閣府防災担当)と協議の上、供与の有無や内容、条件等を定めるところ、上記のように、災害時の居住形態により被災者が応急仮設住宅に入居できる期間に一律に差を設けた理由について、石川県及び国は、ウェブサイト等で説明をしていない。
もっとも、一般的に考えると、災害時に賃貸住宅(公営住宅を含む)に居住していた被災者については、持ち家の居住者と異なり修理や建替えが不要となるため、災害後の住まいの再建にかかる期間、具体的には例えば別の賃貸住宅を確保するまでの期間が、持ち家に居住していた被災者よりも短くて済むと想定された結果であるとも想像される。
2 能登半島、特に奥能登地域の被災後の状況
しかし、上記のような想定は、被災後に賃貸住宅を確保しやすい都市部での局所災害などでは一部妥当することもあり得るが、能登半島地震及び奥能登豪雨に関しては、もともと能登半島、特に奥能登地域は、都市部などと比べて賃貸住宅の数が少ない上、マグニチュード7.6(最大震度7)という巨大地震である能登半島地震及び複合災害となった線状降水帯による奥能登豪雨により、相対的に数が少ない賃貸住宅自体も甚大な被害を受け、多くの住宅が居住できない状態となった。また、甚大な被害を免れ居住可能な状態で残った賃貸住宅についても、被災地の復旧、復興に関わる関係者の使用に供されるなどする結果、被災者が元の被災地で新たに賃貸住宅を確保することは極めて難しい状況にある。
そのため、『災害時に賃貸住宅に住んでいた者は被災後に自宅の修理や建替えが不要であり、他の賃貸住宅に転居すればよい結果、住まいの再建にかかる期間が持ち家の被災者よりも短く済む』という論理は、今回の一連の災害には全く妥当しないのである。
もちろん、石川県金沢市などの都市部を含め日本全体を見渡せば、賃貸住宅は数多く存在する。しかし、そのことを理由に災害時に賃貸住宅に居住していた被災者が応急仮設住宅に居住できる期間を短縮するということは、被災者をして元の居住地域や故郷を離れさせ、遠方の地域への転居を強いることに等しい。これは、憲法で保障された個人の尊厳(憲法第13条前段)や幸福追求権(憲法第13条後段)、居住や移転の自由(憲法第22条第1項)などの制約にも関わる重大な問題である。
また、応急仮設住宅への入居や入居できる期間という、災害で住まいを奪われた被災者の生命・身体の安全や、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権(憲法第25条第1項)に深くかかわる国民の具体的権利について、被災者各人の個別的な事情及び被災地の実情を一切斟酌することなく、一律に、持ち家か賃貸住宅かという災害時の居住形態により別異の取扱いをしている点については、憲法が定める法の下の平等(憲法第14条第1項)の観点からも大きな問題である。
3 応急仮設住宅の供与期間の延長について
さらに、災害時の居住形態を理由とした応急仮設住宅の供与期間に関する別異の取扱いの問題だけでなく、そもそも静岡県弁護士会(以下「当会」という。)及び当会会員が行っている能登半島地震及び奥能登豪雨の被災者支援活動の中では、多数の被災者から、石川県が公表している期間の終了をもって応急仮設住宅から退去を強いられることへの強い不安の声が寄せられており、弁護士に対して涙ながらに苦しみを語る被災者も現に存在しているのである。
もとより特定非常災害に指定された災害では、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の第8条に関する政令指定や災害救助法の運用等により、応急仮設住宅の供与期間は2年間を超えて延長することが可能である。
現在、能登半島地震及び奥能登豪雨の被災地では、生活に不可欠なインフラの復旧の遅れ、公費解体手続の遅れ、住まいや事業の再建のために必要な建築業者や専門家等の不足、今後安全に暮らせるために必要な公共工事等の遅れなど、被災地の復興までに長い期間を要することにつながる様々な問題が発生している。そのため、局所災害の場合のような比較的短期間での被災地復興は極めて難しいこと、被災者が恒久的な住まいを希望する場所で確保するまでには相当な期間を要することが明白な状況にある。 したがって、能登半島地震や同地震との複合災害である奥能登豪雨の被災者が、現在ようやく確保できた応急仮設住宅から退去させられるのではないかという不安から一刻も早く解放され、希望する恒久的な住まいが確保できるまでは安心して応急仮設住宅に居住できるよう、前述の法や制度の運用に基づき可能な限り応急仮設住宅の供与期間が延長されるべきであり、同時に、期間延長に関する情報は可能な限り速やかに被災者に届けられる必要がある。
4 結論
以上の点から、当会としては、冒頭の意見の趣旨記載の事項について求める次第である。
静岡県弁護士会
会長 梅田 欣一
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