共謀罪を新設する「犯罪の国際化及び組織化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という。)が、昨年いったん廃案になったものの、再度上程される見込みです。
この共謀罪とは、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織」により行われる犯罪の遂行を共謀した者に対して、長期4年以上10年以下の懲役・禁固刑を定める罪を共謀した場合には2年以下の懲役・禁固、死刑または無期もしくは長期10年を超える懲役・禁固の刑を定める罪を共謀した場合には5年以下の懲役・禁固を科すというものです。
共謀罪の新設は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「犯罪防止条約」という。)の批准に伴うものとされています。
この点、犯罪防止条約34条1項では「自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置をとる。」と規定されていますが、わが国では「法益侵害の意思だけでは処罰しない」が刑法の基本原則であるはずです。ところが、共謀罪は、実行行為に着手する以前の予備行為さえも要件としておらず、共謀という「法益侵害の意思」それ自体を処罰するものとなっている点で、わが国の刑法の基本原則に反すると言わざるをえません。
また、そのために構成要件がきわめて広汎かつ曖昧になる上、犯罪の処罰時期を著しく早めることにより、不明確な処罰範囲を不当に拡大するもので、共謀罪の新設は、思想信条の自由、表現の自由、結社の自由などの基本的人権に対する重大な脅威となるものと考えられます。
さらに、共謀行為の捜査は、具体的な法益侵害行為を対象とするのではなく、会話、メールなどのやりとりそのものを対象とすることになるため、盗聴法の適用範囲の拡大など国民に対する不当な監視・管理の強化につながることになります。
同様に、意思の連絡である共謀だけで犯罪とされるため、共犯者の自白を含め、捜査における自白への依存・偏重をますます強めることになることは明らかです。
わが国の捜査において、自白依存・偏重の捜査が違法・不当な取調べによる虚偽の自白・供述を生み、これまで多数のえん罪を作り出してきたにもかかわらず、警察や法務省は、いまだに取調べを録画・録音する等の対策をとることに反対しています。そのような現状で共謀罪を新設することは、新たなえん罪を作り出すおそれが高いと言わざるをえません。
よって、当会は、共謀罪の新設に反対します。
静岡県弁護士会
会長 河村 正史