本年9月21日に開会した臨時国会での少年法「改正」法案の審議入りが迫っている。与党三党の提案する法案の要旨は、刑事罰対象少年の年齢(逆送年齢)を14歳に引き下げる、16歳以上で殺人、強盗致死などの人を死亡させた故意犯の首謀者は原則として逆送する、重大事件などについては審判に検察官の出席を認める、重大な事実誤認などを理由とする検察官の高等裁判所への抗告受理申立権を認めるなどとなっている。
これらの「改正」案が提出される理由として、近時のマスメディアによって喧伝されている「青少年の凶悪化」や「凶悪非行の低年齢化」が挙げられている。
しかし、戦後数十年間の少年犯罪の統計によれば、少年が殺人で検挙される割合(年齢層別殺人率)は戦後一貫して低下していることが学者によって指摘されている。
また、統計上、14歳、15歳の年少少年による凶悪犯罪の増加という傾向もみられない。特異な事件のセンセーショナルな報道によって醸成された「青少年の凶悪化」幻想というべきである。
刑事罰を科す対象を拡大することで少年に規範意識を持たせ、少年犯罪の抑止をはかると与党三党は説明する。しかし、「刑事罰化」や「厳罰化」が少年犯罪の抑止につながらないことは、1970年代に「刑事罰化」「厳罰化」政策に転換したアメリカの少年犯罪が減少せず却って増加したという実例からも明らかである。
近年、ドイツ、イギリス、アメリカにおいても、実証的な調査・研究に基づき、応報刑から改善・更生のための処遇の充実への転換が図られている。「刑事罰化」「厳罰化」の是非については、拙速な結論を避け、少年問題に携わる幅広い人々の意見を聴き、慎重な討論を尽くすべきである。
また、14歳、15歳の少年を刑事罰の対象とするということは、中学生を刑務所に入れるということである。心身ともに発達過程にあり未成熟な年代の少年に応報刑的な観点からだけで刑罰を科すことは、青少年に対する適切な対応ができないという行刑の現状からして極めて問題が大きい。
更に、少年審判への検察官の出席は、事実を争う少年にとって、刑事裁判以上に不利益かつ不公平である。予断排除法則も伝聞法則もないまま自白調書を含む総ての捜査記録に目を通し、ある種の心証を抱いた上で審判に臨む裁判官という審判構造を維持したままで少年審判に検察官の出席を認めることは許されるべきではない。
また、検察官の高等裁判所への抗告受理申立権を認めるということは、実質的には、検察官に抗告権を認めることと同様であり、審判の長期化をもたらし、成長過程にある少年への悪影響は計り知れないし、少年審判の協力者という検察官の位置づけとも矛盾し、二重の危険の法理にも反するとも考えられる。
「改正」案には被害者などの意見表明権などの被害者の権利保障を認める規定が盛り込まれるとのことであるが、与党三党の案では、全く不十分である。被害者の権利保障を確立するためには、少年法を「改正」することではなく、被害者への精神的・経済的法的支援を含む総合的な支援制度を創り出すことが必要である。
よって、当会は、今回の与党三党の「改正」案に反対するとともに、少年犯罪の抑止のためにどうすべきかということについて、国民各層による十分な論議を尽くすことを強く要望する。
静岡県弁護士会
会長 福地 明人