グランドプリンスホテル新高輪(株式会社プリンスホテル経営)が、日本教職員組合(以下、日教組という)との施設利用契約を破棄し、日教組が「教育研究全国集会(教研集会)」全体集会を開催することができなくなった問題で、当会は次のとおりの意見を表明する。
- 報道によれば、日教組は、本年2月2日教研集会全体集会(2千名規模)開催のため、昨年5月グランドプリンスホテル新高輪と会場利用契約を締結していたところ、同ホテルは昨年11月、日教組に同契約の解除を通告、これに対して日教組は、同年12月東京地裁に会場使用を求めて仮処分を申立、東京地裁、東京高裁(本年1月30日)のいずれの決定も、会場使用を認める決定であったが、既に同ホテルは、同会場使用を他の利用者と契約をしており、教研集会全体集会は中止された。
なお、同ホテルは契約解除理由として、「周辺に迷惑がかかると判断した」としている。全国各地で毎年開催される教研集会を巡っては、会場周辺で右翼団体等が街頭宣伝活動を行い、警察による警備体制が敷かれたりしてきた。 - 日本国憲法21条1項が保障する集会の自由が、民主主義社会における極めて重要な意義を有する基本的人権であることは、今さら言うまでもない。そして、この人権規定が、企業活動を直接拘束するものではないとしても、集会の自由が有するかかる極めて重要な意義からすれば、企業の経済活動においてもこれを重視、尊重すべきが当然である。
しかるに今回の同ホテルの行為は、憲法で保障された集会の自由を尊重するどころか著しくこれを軽視し、集会の自由を不正な実力で妨害する勢力を結果として助長することとなる。報道によれば、ある右翼団体幹部は、今回の事態を「(自分たちの)活動の成果」としているとのことである。 - さらに今回、東京地裁及び東京高裁が同ホテルに対し会場の使用拒否をしてはならないことを命ずる決定を下しているにもかかわらず、同ホテルがこれに従わず、早々と他の利用者と契約してしまい、これがため集会が中止に追い込まれたという事態を弁護士会としては到底看過できない。「司法よりも企業の論理を優先する判断で、この国の自由は死んだという状況になってしまう」、「法を無視しても賠償すればよいという姿勢なら、法治国家の最低限のモラルに反する」との教育者や法学者の声も報じられているが、我々弁護士会も、同様の危惧を強く指摘せざるを得ない。
- 当会は、日弁連とともに「法の支配」を社会のあらゆる場面に行き渡らせ「国民のための司法」を実現させるための司法制度改革に全力で取り組んで来た。今回のグランドプリンスホテル新高輪の行為は、法治国家における企業の社会的責務に反し、民主主義社会において極めて重要な意義を有する集会の自由の侵害に結果として手を貸すものであり、さらには裁判所の司法判断の無視という重大なルール違反でもある。
当会は、同ホテルのかかる行為に対し強く遺憾の意を表明するととともに、同ホテルに対し真摯な反省を求めるものである。
2008(平成20)年2月12日
静岡県弁護士会
会長 杉本 喜三郎
静岡県弁護士会
会長 杉本 喜三郎