現在、政府の司法制度改革審議会において本年6月の最終意見書策定に向けての審議が急ピッチで進められていますが、同審議会がその中間報告で明確に打ち出した法科大学院を中核とする法曹養成制度に関し、近時、その審議の内外において、法科大学院修了者以外の者に法曹資格取得の途を確保すべきとの議論(いわゆるバイパス論)がなされています。
例えば、自民党司法制度調査会は、本年5月10日付報告書「21世紀の司法の確かなビジョン」において、「法科大学院に行っていない者の中にも、法曹になるために必要な資質・能力を身につけている者もありうるので、法科大学院修了者以外の者に対しても、法曹になる途を認めることが必要である。それらの者に対しては、法律的一般的素養を備えていることを確認した上、法科大学院修了者と同一内容・条件の司法試験を受験させることを考慮する必要がある」と述べて、法科大学院とは別個の確認試験を導入してそれに合格した者には法科大学院を経なくとも司法試験の受験を認めるべきだとしています。また、司法制度改革審議会が5月21日に公表した最終意見書の原案においても、「法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の趣旨を損ねることのないよう配慮しつつ」と限定を付しながらも、「例えば幅広い法分野について基礎的な知識・理解を問うような予備的な試験に合格すれば新司法試験の受験資格を認めるなどの方策を講じることが考えられる」として、自民党司法制度調査会の提言内容に呼応するかのような内容が盛り込まれています。
しかしながら、元々、司法制度改革審議会が法科大学院制度の構想を打ち出したのは、法曹の量的拡大の要請の中で、法曹倫理を含めた法曹の質の確保のために、現行の司法試験受験という「点」のみによる選抜から法学教育・司法試験・司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての新たな法曹養成制度に転換すべきであり、法科大学院を中核とする養成制度こそが21世紀にふさわしい法曹の養成のために必要不可欠であるとの認識があったからでありますし、そうであればこそ、同審議会の提唱した法科大学院制度構想は、今や司法制度の改革を志向する国民各層に広く支持されているものであります。
このような観点からしますと、法科大学院制度を中核とする新たな法曹養成制度が開始された段階で、法科大学院修了者以外の者に新司法試験の受験資格を認めて法曹資格取得の途を確保すべきとの議論は、法曹養成制度の抜本的改革を目指すこの度の構想とは根本的に相容れないことは明らかであります。もしこの「バイパス論」を認めるときは、プロセスとしての法曹養成をめざす法科大学院構想が実質的に骨抜きにされる虞があります。本年4月24日に開催された第57回司法制度改革審議会において、法科大学院修了者以外の者に新司法試験の受験資格を認めて法曹資格取得の途を確保すべきとの考えに出席委員の中から強い異論が出されたのは当然のことというべきです。
当会も、このような立場から、法曹養成制度の改革構想において法科大学院を中核とする新たな養成制度の趣旨をいささかなりとも損ねるような制度に反対するとともに、司法制度改革審議会に対し、このような「バイパス論」に関し、最終意見書の取りまとめに向けて慎重かつ十分な審議を行うよう要請いたします。
以上 会長声明として提示いたします。
静岡県弁護士会
会長 増田 堯