- 日本弁護士会連合会は、本年4月20日、いわゆる「有事法制3法案」について反対を表明し、同法案を廃案にするよう求める決議を行った。
当会としても、これら法案には少なくとも以下のような重大な憲法上の疑義があることを指摘せざるを得ない。- (1) 「武力攻撃事態」の範囲・概念が曖昧であり、恣意的認定がなされる危険性がある。
- (2) 公務員・民間人に対して軍事目的・軍事行動に協力することを行政措置・業務命令・刑罰等で強制することとなり、憲法の立脚する人権保障原理に抵触し、重大な人権侵害を生じさせるおそれが強い。
- (3) 自衛隊の権限・出動範囲を拡大し、周辺事態法とあいまって憲法の禁止する集団的自衛権の行使に至る危険性があり、憲法の平和原則等に抵触するおそれがある。
- (4) 政府に武力攻撃事態認定の権限を与えるだけでなく、内閣総理大臣に「事態対処処置」という強大な権限を独占・集中させており、国民によるコントロールの仕組みが極めて不充分であって、統治構造を変容させ乱用のおそれも大きい。
- (5) 「武力攻撃事態」を理由に放送メディアを自由にその統制下に置くものであり、メディアの権力監視機能・報道の自由を侵害し、国民の知る権利を侵害して、国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険性を有する。
しかも、このように憲法に関わる重要な問題を包含する法案であるにもかかわらず、直前に至るまでその具体的内容が国民に開示されないまま国会に上程され、
なおかつ、国民的論議が充分尽されないまま性急・拙速に成立を図ろうとするやり方は、国民主権に基づく民主的手続にも反するものであり、かかる観点からしても、強くこれに反対せざるを得ない。
法案の必要性について、「備えあれば憂いなし」との説明がなされるが、現在のわが国を取り巻く状況の中に、有事法制問題につき、期間をかけて国民的な論議を行うことを妨げるような状況を見出すことは困難である。
このことは、例えば、中谷防衛庁長官が「(有事法制は)3年、5年のターム(期間)では想像ができないかもしれません」と述べ、小泉総理大臣も、「現在のところ、ご指摘のような、(日本が侵略を受ける)事態について、我が国に脅威を与えるような特定の国を想定しているわけではない」(2002年2月8日参議院本会議)と国会で答弁していることからも明らかである。
よって当会も上記の理由から、有事法制3法案に反対しその廃案を求めるものである。
2002(平成14)年5月21日
静岡県弁護士会
会長 塩沢 忠和
静岡県弁護士会
会長 塩沢 忠和